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シェアリングサービス企業がオンラインペット霊園「メモリアール」を運営する理由古田雄介のデステック探訪(1/2 ページ)

亡くなったペットのメモリアルページを作れるSNS型サービス「メモリアール」のβ版を公開されてから、2年が経とうとしている。コミュニティーとして順調に育つ背景には何があるのだろうか。

ペットの思い出をこめて「お墓ページ」を作成する

 飼っていたペットの写真や思い出を詰め込んだページを作り、家族と共有したり、多くの人からデジタルの献花をもらったりできる――。

 オンラインのペット霊園サービス「memoriR(メモリアール)」がリリースされたのは2021年3月のことだ。当初はβ版として、現在は正式版として提供されている。

 利用者はまず、会員登録してマイページにログインし、ペットの情報を入力する画面に進む。ペットの名前や写真、プロフィール、亡くなった日付などを入力すると、運営側の審査を経て「お墓」(メモリアルページ)が一般公開される流れだ。筆者が登録したときは即日で審査が通った。

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ペット情報の入力画面。ペットの名前や画像、命日や享年(生きた年月数)などの必須情報を入力していく

 審査が通った「お墓」は、メモリアールの霊園ページに置かれる。霊園はペットの種類や名前などで検索可能で、会員なら誰でもお参りできる。他の会員のペットのお墓を開き、「e献花」で季節の花を捧げたり、個別にメッセージを送ったりもできる。


「霊園」ページ

審査が通って公開された「お墓」。他のユーザーからe献花(左側の赤い花マーク)やメッセージが届く

 また、ペットの命日になると運営から通知が届く仕組みもある。これらの基本機能は全て無料で利用でき、月額165円のサブスク版に切り替えると複数の画像をローテーションで切り替えたり、e献花やメッセージの受信を制御したりする機能も使えるようになる。広告も非表示で利用可能だ(2023年3月時点では、無料版でも広告表示はない)。


提供プランは無料とサブスクタイプの2種類から選べる

 一通り使ってみると、お墓の編集画面や霊園ページはシンプルで分かりやすく、スマートフォンでもPCでもスムーズに向き合うことができた。他の方からのe献花も数日で10数件いただくなど、SNSとしてもまずまず活発な様子だ。

 ただ、霊園は長く付き合うことになる場である。良好な環境を5年10年と安定して持続してもらえるであろうという安心感が欠かせない。そのあたりの展望について、運営元のWallBankで代表を務める橋本一幸さんに尋ねた。

実体験と稼業のノウハウが融合して生まれたサービス

 WallBankは2017年9月に神戸市で創業したベンチャー企業で、マンションやオフィスビルのエレベーターの壁面を広告メディアとして活用する、シェアリングプラットフォーム「WallBank」を提供している。

 その企業がメモリアールを立ち上げたのは、橋本さんの個人的な体験からだった。

 「2020年1月の始めに、実家で飼っていた犬が亡くなりまして。私も長く一緒にいたのでかなり落ち込みましたが、そのとき母が『友達が献花してくれたよ』と画像を送ってくれました。私にとっては見ず知らずの人からの献花です。それを見てとても救われた気持ちになったんですね。自分の悲しみに共感してもらえたということがものすごくうれしくて。

 そうした共感の輪を広げられるサービスが、自分には作れるんじゃないかと思い立って開発に乗り出しました」(橋本さん)

 一見すると、WallBankとオンラインペット霊園は全く別のサービスに思えるが、「シェアリングエコノミーとSNSはロジックがほぼ一緒」だという。根底には共有の思想があり、それをサービスとして育てていく流れには共通するノウハウが多々あると語る。

 ただし、メモリアール事業には橋本さん以外の人手は使わないと決めている。収益を生むまでに長い時間を要すると考え、運用コストを最小限に抑える方針をとった。

 実際、β版を公開してからe献花の総数が1000回を超えるまでに3カ月近くかかったという。1万回に達したのはその約1年後だ。しかし、そこからは急カーブを描くようになった。2023年3月時点でおよそ8万2000回となっている。利用者は40代と50代が中心ながら、20代から70代まで幅広く分布しており、感覚としては女性が6~7割といった割合になっているそうだ。

 「お墓」の具体的な総数は非公開ながら、累計で2000回を超えるe献花を受けているお墓もある。コミュニティーとしての活気が十分に育まれたと判断し、2022年10月に正式サービスに踏み切った。


2022年10月のPR TIMESリリース。正式版に切り替え、サブスクプランの提供もこのときに開始した
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