アドビが手探りで実践するデータサイエンティスト育成現場の高校に行ってきた(3/3 ページ)
アドビと関西学院千里国際中等部・高等部が共同で開発/展開した「データサイエンス」カリキュラムが、報道陣に公開された。2022年度から必修科目となった「情報I」の授業はどのように行われているのか、大阪府にある学校に向かった。
君たちはKKDを手にした! でも私のKKDも大事!
一通りのプレゼンが終わり、生徒や関係者が教室に集まって授業の締めとなった。
そこでは、学校のWebページを作ったのは、実は西出教諭と萩原校長だったという話を枕にして、アドビの小泉氏と西出教諭からデータサイエンスとデータサイエンティストに求められる素養、必要なポイントが話された。
西出教諭は「ブランディングをイメージで伝えようとWebページの大改修をやったが、継ぎ足してやった部分もあって結局分かりづらくなり、データサイエンスの視点から見ると足りないところがあった」とし、多くのグループが的確に指摘していた問題点を評価した。
一方で小泉氏からは「データサイエンティストにはデータサイエンスに関わる統計や計算だけでなく、データから洞察や発見、うなずきを導くといった技術も必要だが、最も大切なのはそれらを伝えるコミュニケーション力であり、そこがデータサイエンティストの不足の理由でもある」と力説する。
さらに西出教諭は「データサイエンスの分析だけだとどうしても味気なくなるので、アドビのみなさんと一緒に取り組んだことでマーケティング視点を学べたのが良かった。最終的には課題解決力と課題発見力、そして価値想像力が求められる」とし、生徒には「この授業を経て、みなさんは新しい一歩を踏み出した。そして手にしているものがある」と語る。
それは「KKD」で、データ分析やツールがなかった時代は、「K」=カン/「K」=経験/「D」=度胸でデザインしていたが、「今は同じKKDでも仮説/検証/データサイエンスを使うことが重要であり、これから求められる要素だ」(西出教諭)とまとめた。
大げさに言えば、21世紀の産学協同の最前線を垣間見た授業ではあったが、参加した生徒はどうだったのだろうか。授業を体験した3人の11年生に聞いた。
- 「もともと理系は苦手だったけど、お店の経営にも興味があって、こういった機会が得られてよかった。実際に複数のツールを使ったけど、分かりやすいし個人でやるのは難しいからやって良かった」
- 「将来は美容院の経営を考えていて、経営するならばデータの分析をできないとだめだし、Adobe XDを使ってWebサイトを作る必要もあるので、実際にプロから学べて良かった」
- 「想像していたのはアドビの人から直接レクチャーを受けられる形だったけれど、実際は動画だけでは物足りなかった。もう少し時間が欲しかった」
と、総じて好評であり、コロナ禍ゆえのメリット/デメリットがあったようだ。
西出教諭は「情報科で扱う範囲は広く、大きな領域は4分野もあってデータの活用を均等割りすると、必修の70時間ではどうしても深いところまでできない。今回の35時間では全く足りないし、最低でも70時間の倍はないといけない」と、アドビとタッグを組んだカリキュラムを提供できた点を評価しつつも、教える側のもどかしさも率直に語っていた。
そういった中でも、筆者が一筋の光明を感じたのは「先生は仮説/検証/データサイエンスのKKDが大事と言ったけれど、どう思った?」という報道陣の質問に対し、ある生徒が答えた内容だ。
それは「私は勘と経験と度胸のKKDは通用すると思っている。例えば、本能的に私が好きだと思ったデザインは通用する気がしているし、これからの人生にとても重要なものだと思っている」という発言であり、それを聞いた回りの生徒も激しくうなずいていたからだ。
今回のカリキュラムは、アドビと同校ともに手探りの中で進めた取り組みであり、まだ双方のフィードバックも済んでいない状態ではある。今後の展開も気になるところだが、アドビや西出教諭と萩原校長だけでなく、参加した生徒もそれぞれの手応えを感じていたのは間違いがないようだ。
※記事初出時、一部氏名に誤りがありました。おわびして訂正します(2023年4月5日午前11時)
(取材協力:アドビ)
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