アドビが手探りで実践するデータサイエンティスト育成現場の高校に行ってきた(2/3 ページ)
アドビと関西学院千里国際中等部・高等部が共同で開発/展開した「データサイエンス」カリキュラムが、報道陣に公開された。2022年度から必修科目となった「情報I」の授業はどのように行われているのか、大阪府にある学校に向かった。
苦肉の策ながらユニークなプレゼン形式
本カリキュラムを始めるにあたり、生徒自身が通う学校のWebページを題材に選定した理由は、これまでの情報科における授業で感じていた不満を解消するためだったと西出教諭は語る。
「以前から、例えば都道府県のランキングなど相関分析するなどデータの活用はやっていたものの、生徒が授業内容を自分事として感じてもらえず、どうしてももどかしさを感じていたので、今回は(学校のページにしたことに)価値がある」という。
実際、生徒が行ったプレゼンテーションを見ていくと、現状分析から課題の抽出、仮説を立ててからデータの分析と検証に基づいて新しいWebページのデザインを提案と、限られた時間の中でも手探りで取り組んだことがうかがえる。
特に印象的だったのは、プレゼンテーションの発表形式だ。2〜3人の1グループが1対1で発表側と傍聴側に分かれ、プレゼン7分、質疑応答などのディスカッションが8分という15分が1セットで、次々とローテションしていく。
しかも、発表場所は教室だけでなく廊下の柱を使ったり、踊り場のようなところを使ったりと、ちょっとしたハッカソンやワークショップのイベントのようなのがユニークだ。
西出教諭にうかがったところ、「本当は1グループずつ教室の前に出て、全員でディスカッションするのが理想なんですが、それだととても時間が足りなくて……苦肉の策です」とのことだが、発表内容や話し方といったプレゼンのスキルアップには格好の場のようにも見えた。むしろ、4つある発表会場を駆けずり回ってメモを取ったり撮影したりする西出教諭のせわしなさが気の毒なほどだ。
どのグループも、Webサイトにどれだけ訪問者があってどこから来たのか、滞在時間といった分析こそ共通だが、そこからの仮説と改善策は多種多様だ。中にはAdobe AnalyticsやAdobe XDを使いこなしてプロトタイプのページを作ったグループもあれば、ツールは余り使わずに仮説を立てたというグループもあり、この辺りの距離感はさまざまだった。
これについては教える側も想定内で、西出教諭は「今回のカリキュラムを通じて、概念を獲得してもらいたいというのが切なる願い。概念さえ持っていればツールが変わっても将来的に使える」とし、アドビ側も「目的に向けて行動するわけで、それができないときにツールを使うことになる。ツールに頼らざるを得ないところは使うが、基本的な考え方を取得できるようにしてもらいたいし、こういった体験自体をしてもらうことが大事だ」と説明する。
生徒のデバイスはBYOD
ところで、アドビのツールを使うにしろ、それなりのパフォーマンスがPCに求められる。学校では特に必要なスペックを示さず、生徒が使うPCはBYOD(Bring Your Own Device)で各自が持ち込んでいるという。
試しに生徒のPCを見ていくと、確かにデバイスのスペックは総じて高い。MacBook Airや物理ファンクションキーが復活した後のMacBook Proを使っていたり、タブレットもM1搭載iPad Proであったり、Windows PCならLet's note FVシリーズだったりと、これまでこの手の取材で訪れた高校の中でもトップクラスのスペックを備えたものばかりだ。
もちろん、これらはあくまで一例であり、PCの性能が必要な場合はPC教室にあるモデルを使うとのこと。ちなみにPC教室のモデルは、インテルがSTEAM Labプラットフォーム協力パートナーと共に提供する「STEAM Lab」の実証実験校となり、そこで提供されたユニットコムのデスクトップPC「LEVEL-R959-LC117F-SAX」が10台と、27型ディスプレイ、そして3Dプリンタが設置されていた。
壁にはインテルの「STEAM Lab」のポスターが貼られていた。デスクトップPCのスペックは、CPUがCore i7-11700Fでメモリは16GB、GPUはGeForce RTX 3060 Tiとなかなかだ
中高ともにBYODで、以前は中等部の希望者にChromebookを貸与していたこともあるそうだが、2022年4月に着任した同校の萩原 伸郎校長は「Chromebookなどでは本校で求める要求を満たせず、アウトプットが限られてしまうという課題があったが、今では解消した。従来の知識を詰め込む形ではなく、現実の社会のように教科を超えた横断型の探究学習が、これからは1つのカリキュラムになっていくのではないかと思っている」と述べた。
実際、同校の7年生から12年生までの6年間、探究のプログラムを展開しており、「今回のような実証実験を踏まえて、生徒共に学んでいきたい」という(萩原校長)。
いよいよプレゼンが終わり、まとめの時間に入った。
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