アドビが手探りで実践するデータサイエンティスト育成現場の高校に行ってきた(1/3 ページ)
アドビと関西学院千里国際中等部・高等部が共同で開発/展開した「データサイエンス」カリキュラムが、報道陣に公開された。2022年度から必修科目となった「情報I」の授業はどのように行われているのか、大阪府にある学校に向かった。
経済産業省の「AI人材育成の取組」を例に挙げるまでもなく、日本でのIT人材の不足は深刻だ。遅ればせながら、2022年4月から新学習指導要領の実施に伴って高校の授業で必修化された科目が大きく変わり、情報科が必修の「情報I」と選択科目の「情報II」に再編される。同時に、2025年の大学入学共通テストから「情報」が入試科目となる。
情報Iとは、情報社会の問題解決をテーマに、プログラミングやデータ活用を行って実践的に学んでいく内容だ。これまでの「情報」の科目区分は、情報やモラルに関する知識を学ぶ「社会と情報」、プログラミングを学ぶ「情報の科学」のどちらかを選択必修となっていた。
しかし、現状はプログラミングを学ぶ後者を選択するのは2割程度にとどまる一方、小中学校のプログラミング教育は2020年度からスタートしており、それらの子どもを迎える高校でも待ったなしという状況ではあった。
そして情報Iがあることは当然情報IIがあるわけで、「情報II」は情報Iを発展させた応用力を問われる内容であり、情報システムやデータを統計的に適切に扱いながらコンテンツの創造力も育成するというもので、選択科目として2023年4月から始まる。
不足するデジタル人材を育てるためにどうするか
このような状況を受けて、官民を問わずデジタル人材の育成を支援できないかという動きが展開されており、アドビも2021年9月頃から社内で有志が集まって検討を進めていたという。クリエイティブ分野だけでなく、データソリューション分野でも貢献できるのではないかということで、その取っかかりを探っていたそうだ。
これは同社日本法人独自のビジョン「心、おどる、デジタル」が掲げる4つのテーマのうち、「Foster」(次世代を育てる)をまさに具現化する取り組みでもある。
幸いなことに、アドビは同社製品を活用し授業実践を広めるための教職員を対象にした認定制の特別コミュニティー「Adobe Education Leader(AEL)」を抱えている。まだ形になっていない段階で複数の先生に打診をしたところ、AELの一員である西出新也(にしで しんや)教諭が関心を示し、2022年6月にはプレスリリースを出し、2022年11月から“「データサイエンス」カリキュラム”を高校で実践することになった。
西出教諭は、関西学院千里国際中等部・高等部で技術化・情報科主任 ラーニングテクノロジーコーディネーターの肩書を持ち、技術科と情報科を指導している。この同高等部は、中等部と国内在住の外国人児童/生徒を対象にした関西学院大阪インターナショナルスクールとともに、大阪府箕面市にある千里国際キャンパス内にある。
今回は、本カリキュラムの最終盤となる1コマ(50分授業)が報道陣向けに公開された。
関西学院の高校生がアドビのサポートを受けて授業を行う
関西学院千里国際中等部・高等部は中高一貫教育で、前述のようにインターナショナルスクールも併設されている。そのため9月入学はもちろん、教室や施設を共有し、授業/ クラブ活動/行事なども共に行っており、校内はさまざまな年代や人種の人々が行き交う。
このデータサイエンスは情報科の選択授業(1単位/全35コマ)として行われ、在校生の11年生〜12年生(日本では高校2年生〜同3年生に相当)計23人が参加している。
お話を伺った西出新也教諭(中央)、アドビ マーケティング本部 執行役員の小池 晴子本部長(左)、先生役となったアドビ カスタマー ソリューションズ統括本部 プロフェッショナル サービス本部 シニア コンサルタント/ソリューションアーキテクトの小泉 幸久氏(右)
本カリキュラムは課題発見から解決アイデア策定までのプロセスを学ぶのが目的で、科学的根拠に基づくデザインを学ぶことがテーマになっている。題材は関西学院千里国際中等部・高等部のWebページで、4つのチーム分かれて同ページを分析して課題を抽出し、改善したプロトタイプを作成、その結果をプレゼンテーションして総括するというのが流れだ。
西出教諭とカリキュラムを共同開発したアドビの立ち位置は、Web分析ツール「Adobe Analytics」やプロトタイピングツール「Adobe XD」などの提供とともに、使い方やノウハウを動画で提供し、不明点のサポートなどをオンラインで行うというものだ。リアルのアドビ“センセイ”が同校に足を運んだのは、報道陣と共に訪れた1日だけだという。
同社はデータサイエンスの授業などを既に社会人向けに提供しているが、高校生には初めての機会となった。本プロジェクトのリーダーを務めたアドビの小泉 幸久氏は、「なるべく専門的にならないよう、標準的にならすことを心がけた。生徒のみなさんの頭の構造、脳みそをアップデートできる内容にした」と説明する。
また「例えば小学校低学年の国語の授業、つまり他の授業を理解するための基礎的な部分があるように、データサイエンスも同じような意味で提供したいと考えている。“情報”という意味の根底にある考え方を提供していければと取り組んだ。今回が初めての実証実験であり、これから受けるフィードバックが楽しみだ」と語った。
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