「デジタル遺言」の可能性――遺言書を作成できるアプリの開発元に聞く:古田雄介のデステック探訪(2/2 ページ)
チャットで質問に答えていくだけで、遺言書につづる文言が自動で作成されるアプリがある。世界的にデジタル×遺言の動きが進む中で、どんなニーズをつかんでいるのか。遺言書自動作成アプリ「らくつぐ」を開発した司法書士事務所を尋ねた。
無料から有料依頼へのステップに課題あり
らくつぐで大枠の文面を作った上で、詳細な遺言書の作成を同事務所に依頼することもできる。「オーダーメイド遺言」と名付けられたオプション機能で、自筆証書遺言の場合の報酬額は17万8000円となる。その他、戸籍謄本などの代行取得や立ち会いでの相談手数料は別途かかる。
このあたりの費用感は一般的な法律事務所の水準になっており、同事務所に直接依頼が届いた場合も同じ額で受けている。しかし、アプリ経由での相談では、金額や手間などのすり合わせが難しいと感じるケースが多くあった。
「無料アプリからいきなりこの額ということで、ミスマッチが生じているのだと思います」
お金をかけずにスマホで気軽に試せる「らくつぐ」と、報酬を受けてプロが本格的に取り組む「オーダーメイド遺言」。両サービスには大きな隔たりがあり、中間的なサービスを開発する必要があるのではないかと所内で議論が進められるようになった。
世界で広がる「デジタル遺言」
日経新聞がデジタル遺言制度について報じたのは、そんな矢先のことだった。
報道によると、政府は2024年3月を目標にデジタル遺言制度の創設を検討しているという。詳細はまだ不明ながら、デジタルを活用することで遺言書の作成を促す狙いがあることは伝わってくる。
2019年にアメリカの統一州法委員会(ULC)がデジタル遺言に関する法律「e遺書法」を承認するなど、海外でも導入の動きが広がっている。元から録音証書遺言が認められている韓国では、スマホを使った遺言作成が以前から人気だ。
「これから動向を追いかける必要がありますが、政府の動きを踏まえて、速やかに新サービスがリリースできるように動きたいと思っています」
士業が立ち会う業務となると、どうしても高額となってしまう。遺言を作りたい人が自宅で取り組める気軽さを維持しつつ、コストを抑えて法的に有効な遺言書が作れるところまでサポートする――思い描いているのは、そんな中間的な有料サービスだ。
今後は遺言作成のハードルもデジタル化でどんどん低くなっていくかもしれない。ただ入り口は、既に相当低い。自分に万が一のことがあったときに家族がもめる要素はないか? 誰に何が渡りそうか? 気になった人は「らくつぐ」を試してみるといいだろう。
関連記事
なぜ象印は20年前から見守りサービスを続けているのか
不測のデス(death)をテクノロジーで防ぐのもデステックだ。2001年から通信技術を使った見守りサービス「みまもりほっとライン」を提供している象印マホービンに、その狙いを尋ねた。20年以上続けるのはだてじゃない。シェアリングサービス企業がオンラインペット霊園「メモリアール」を運営する理由
亡くなったペットのメモリアルページを作れるSNS型サービス「メモリアール」のβ版を公開されてから、2年が経とうとしている。コミュニティーとして順調に育つ背景には何があるのだろうか。メガバンク提供の情報管理サービス「SMBCデジタルセーフティボックス」が解決する悩み事
今の時代は、IDやパスワードなどのもろもろを死後のことまで考えてメガバンクに預けることもできる。三井住友銀行が「SMBCデジタルセーフティボックス」の本格提供を始めて1年。どんな人にどのように生かされているのか。その実情をのぞいた。死後に困らない&困らせないアレコレをスマートに託せる「lastmessage」
自分が死んでしまった際にメッセージを発信したり、抹消したいIDを消したりといったことを託せるサービスが増えている。しかし、利用者との約束を果たさないまま姿を消すサービスも多い。2020年3月に提供を始めた「lastmessage」はどうなのだろうか?フリーソフト「死後の世界」が19年以上も現役であり続ける理由
前回のログインから一定時間が過ぎたら、あるいは期日指定で特定のフォルダーが削除できる「死後の世界」。Version 1.00が完成して以来、19年以上も提供を続けている。息の長いこのフリーソフトはどのように作られ、管理されてきたのだろうか。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.