ニュース

3つのキーワードで読み解く! 「WWDC23」から見えた2024年のAppleプラットフォーム(3/5 ページ)

2023年5月に開催されたAppleの「WWDC23」。話題は「初の空間コンピュータ」として発表された「Apple Vision Pro」に行きがちだが、Appleのプラットフォームを支える、既存OSのバージョンアップも見逃せないポイントが多い。

Safari:プロフィールやWebアプリで切り分けて目的別ブラウジング

 秋にリリース予定の新OSの中で、筆者が重要と思う2つ目のキーワードは「Safari」だ。

 Safariの歴史はプライバシー保護の歴史といってもいい。30年以上前に誕生して以来、Webは情報の獲得から商品の購入、親しい人とのコミュニケーション、仕事の業務まで幅広い用途に使われている。Webブラウザは、第2のOSと言ってもいいほど重要なアプリだが、それだけにこのアプリのセキュリティがしっかりしていないと、ユーザーは趣味趣向や家族構成などさまざまなプライバシー情報を盗まれ、悪用される恐れがある。

 Safariは、ユーザーの個人情報を盗もうとあらゆる工夫を重ねるWebサイトに対して、毎年新たな対抗措置を用意してきた(AppleがiOSで、他のブラウザエンジンの利用を認めようとしないのは、まさにこの部分のセキュリティを緩めたくないからだろう)。

advertisement

 Safariのそういったプライバシー保護の工夫として最も古いのが、プライベートブラウジング機能だ。今ではほとんどの他社ブラウザーも採用しているが、ユーザー情報を全く持たないまっさらなブラウザとしてWebブラウジングができる。使い終わるとセッション中に記録された情報が抹消されるこの機能は、履歴を残さずにブラウズできる手段として、またWeb作成者が自分のWebサイトが他の人にもちゃんと見えているかを確認する手段として愛用されてきた(Web作成者のブラウザには、ログイン情報など作成者ならではの情報が保存されていることが多い)。

 今回、このプライベートブラウジングの機能がアップデートされ、ユーザーがしばらく離席すると画面がロックされ、Webページの情報が覆い隠す機能が加わる。生体認証やパスワード認証をしない限りブラウズしていた画面が表示されない機能だ。秘匿性の高い情報を扱うことが多いプライベートブラウジングを、より安心して使えるようにする機能ともいえる。

 一方、Appleは2023年秋以降のSafariに仕事用、パーソナル(私)用などウインドウ単位でブラウザのログイン情報や履歴などを含む記録情報を切り分ける「プロフィール」別ブラウジングの機能も用意する。


Safariが世に生み出したプライベートブラウジング機能が、より安全になる。Macを離れると、ブラウザ画面上の情報が認証を終えるまで覆い隠した状態にしてのぞき見できないように配慮している

 例えば、同じECサイトやクラウドサービスでも仕事用とプライベートでアカウントを分けているような場合、この「プロフィール」機能を使えば、仕事用のアクセスとプライベートでのアクセスをウインドウ単位で切り分けることができる。

 必要に応じて副業用のアカウントや育児中など第3、第4のプロフィールを追加することも可能だ。

 この機能をちゃんと使えば、家で行っていた趣味や持病に関するブラウジングをターゲットにした広告が、職場、同僚にWebページに見せているときに表示されて恥ずかしい思いをするといったことも防ぐことができるはずだ。

 もう1つ面白い機能が搭載される。

 macOS Sonoma版Safari限定の「Webアプリケーション」の作成機能だ。誰にでもGmailなどのクラウドサービスや、Instagramなどのソーシャルメディアなど、Webブラウザで頻繁にアクセスしているWebサービスが2つか3つはあるはずだ。

 新しいSafariでは、そうしたサービスをアプリとして保存できる。保存したアプリは通常のアプリ同様にアイコンが用意され、Finderでそれをダブルクリックして起動すると、他のアプリ同様にドックにもSafariとは別扱いの実行中アプリとしてアイコンが表示される。アプリを通して行った操作は、そのアプリにだけ記録され、Safariの他のブラウジングとは区別されるのでプライバシー保護の観点でも魅力的な機能だ。


ウインドウ単位でブラウザのログイン情報や設定、履歴などを切り分け。手前のウインドウの左上には「Work(仕事用)」、後ろにあるウインドウの左上には「Personal(個人用)」と書いてあるのが分かる。同じクラウド会計サービスをアクセスしても、手前のウインドウは会社の情報が、奥のウインドウは自分の個人資産の方法が表示される、といったように、ウインドウ単位で公私や副業など用途ごとのブラウザ設定を切り分けできる

 プロフィールやWebアプリケーションの保存は、GoogleのWebブラウザ「Chrome」で先に実現していた機能だ。中にはこれらの機能のためだけにChromeを使っていた人もいるかもしれない(筆者はメインのWebブラウザはSafariだが、ChatGPTとGmailのWebアプリを作成するためだけにChromeも同時利用していた)。今後は同じことがSafariでも可能になる。

 Safariは、また今日のセキュリティの要であるパスワードの利用に関して、もういくつか面白い機能変更が加えられている。例えばログイン時にメールを使ってワンタイムパスワードを送ってくるようなサービスでは、メールで受信したワンタイムパスワードを、指紋認証などで本人認証するだけで自動的に入力してくれる機能だ(つまり、いちいちメールアプリに切り替えなくてよい)。


「プロフィール」別ブラウジングはMacだけでなく、iPadやiPhoneでも利用できる

 さらには、パスワード共有のための機能も搭載された。家族間で同じショッピングサイトのユーザーIDを共有するといったことはどこの家庭でもよく行われていることだが、あらかじめサービスごとにパスワードを共有する相手を設定しておけば、登録メンバー内ではID/パスワードが自動で入力される。また何かがあってパスワードを変更した際にも、その変更が他の共有メンバーにも反映される。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.