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なぜ高い? 59万円超のフォルダブルPC「ThinkPad X1 Fold 16 Gen 1」の秘密に迫る発表から約1年(4/4 ページ)

レノボ・ジャパンが、ThinkPadの研究/開発拠点である大和研究所で「ThinkPad X1 Fold 16 Gen 1」とサステナビリティーに関する説明会を開催した。ThinkPad X1 Fold 16 Gen 1は2022年9月に発表されたモデルだが、最近になって本格的な販売を始めた所である。どのような特徴があるのだろうか。

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本体へのリサイクル素材適用を拡大 賢い省電力機能も

 先述の通り、昨今ではヨーロッパを中心にPCの調達要件に「環境負荷の軽減」を盛り込む企業が増えている。そのことを受けて、大和研究所でも環境配慮に関する研究/開発活動がさかんだという。もちろん、ThinkPad X1 Fold 16 Gen 1にもその成果が盛り込まれている。

 まず本体のバックパネルには、100%再生素材由来のバリスティックポリエステルを採用している。また、Bluetoothキーボードの底面や自立スタンドの脚部に使われている人工皮革「クラリーノ」も、再生素材を80%使って作られている(比率はいずれも質量ベース)。


本体のバックパネルとBluetoothキーボード/スタンドには、リサイクル比率の高い素材を採用している

バックパネルは100%再生素材由来のバリスティックポリエステルを使って作られている。高級感は抜群で、リサイクル素材から作られているとは分からない

 加えて本機では、カメラで撮影したユーザーの顔の“向き”を判断して、画面から視線が外れた際に画面の輝度を落としたり消灯したりする機能が搭載されている。顔の向きの判定は本体のAIチップが担っており、プライバシーにも配慮されている。

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 本機が採用するOLEDパネルは、液晶パネルと比べて消費電力が大きくなる傾向にある。本体に備わっているハードウェアを駆使することで、少しでも省エネ性能を高めていることは興味深い。


視線を外した際に自動的に画面の輝度を落としたり消灯したりする機能を備えている

さらに加速するサステナビリティーへの配慮

 サステナビリティーという観点では、昨今のレノボ製品では「本体部品への再生素材の利用」の他、「プラスチックを使わない梱包(こんぽう)」「低温ハンダの採用拡大」にも取り組んでいる。

 本体部品への再生素材の利用は、2017年から再生プラスチックの採用を本格化し、2021年からはリサイクル金属(アルミニウム/マグネシウム)も使い始めた。再生プラスチックについては、2025年までにノートPC全製品での採用を目指しているという。


レノボグループでは、2025年までにノートPC全製品でリサイクルプラスチックの利用を目指しているという。バッテリーフレームやスピーカー/ACアダプターのエンクロージャーでは、リサイクル素材の比率が高いプラスチックを使っているという

ユーザーが直接触れる外装素材でもリサイクル素材の利用を薦めている。最新モデルでは、キーボードのキーキャップにリサイクルプラスチックを使い始めたという

「ThinkPad X13 Gen 4」でリサイクルプラスチックが使われている部位

「ThinkPad L14 Gen 4」の一部構成では、30%のリサイクルプラスチックを含む底面パネルを採用している

 プラスチックを使わない梱包については、数年前のモデルからプラスチックの利用比率を順次減らしてきた。そして2023年モデルでは完全なプラスチックフリー梱包を実現したという。

 低温ハンダ(LTS)は、通常よりも低い180度で溶けるハンダだ。レノボでは単にハンダとして使う冶金(やきん)、フラックス(融剤)、ハンダ付けする機器のプロファイル設定や、基板のデザインなど、さまざまな側面で最適化を行い、特許も取得している。二酸化炭素の排出量を削減する観点から、この特許は同業他社にも無償でライセンスされているという。

 低温ハンダの採用によって、レノボグループでは2017年から2022までの間に1万1960トンの二酸化炭素の排出削減を実現できたとしている。今後も、低温ハンダを適用できる部位を拡大して、さらなる二酸化炭素の排出削減に取り組むとのことだ。


ThinkPadの2023年モデルでは、ついにプラスチックフリー梱包を“完全達成”した。プラスチックフリー化に当たっては、画像のような小物類が意外と障壁になったようだ

プラスチックフリー化されたパッケージ。画像はThinkPad X1 Carbon/Yoga(上位構成)向けのリテールパッケージだが、他のパッケージでも同様にプラスチックフリー化を果たしている

参考として、プラスチックフリー化前のThinkPad X1 Carbon/Yoga(上位構成)のリテールパッケージも展示されていた。筆者が過去に買ったThinkPad X1 Carbon Gen 5(2017年モデル)も、こんな感じのパッケージだった

低温ハンダを使うことで、製造プロセスにおける二酸化炭素の排出削減も進めている

 発表から本格的な販売開始まで1年少々かかってしまったThinkPad X1 Fold 16 Gen 1だが、説明を聞けば聞くほど、非常に魅力的なモデルであることがよく分かる。フォルダブル設計ゆえのメリットも多くあり、先代でネックになっていたポイントもしっかりと解消されている。

 ただ、最小構成でも60万円弱という価格は、普通の個人ユーザーが買うには非常に悩ましいことも事実だ。「同じお金があれば、スペックをマシマシにしたX1 CarbonやX1 Yogaを2台買えるかもしれない」と、どうしても考えてしまう。今までにない機軸のPCゆえに、どうしても高価となってしまうのが、本機の弱点といえる。

 今後、生産工程を含めて技術革新が進めば、今のノートPC程度の価格でフォルダブルPCを買える日が来るのだろうか。筆者個人としては、一刻も早くそういう状況になってほしいと思う。

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