シャープがEVを売りたい理由 CTOに聞く、“シャープらしさ”を取り戻すために今考えていること:SHARP Tech-Day(4/6 ページ)
シャープが、操業111周年を記念して2023年に行ったイベント「SHARP Tech-Day」が、装いも新たに2024年も開催される。本イベントの狙いやこれまでの取り組み、そして未来への挑戦を同社CTOの種谷元隆氏に聞いた。
イノベーションアクセラレートプロジェクトで開発スピードを2倍に
―― SHARP Tech-Day'24では、50以上の展示のうち、CE-LLMを始めとするAI関連の展示が半数以上を占めます。シャープがAIに対する取り組みを積極化していることを感じます。
種谷 当社の経営トップを始め、多くの社員がAIはユーザーに届ける価値を変えることができる技術であり、そこにチャンスがあると捉えています。当社では、新たに「イノベーションアクセラレートプロジェクト(通称:I-Pro)」を、2024年5月からスタートしました。これは、1977年からスタートし、数多くの成果を上げてきた「緊急プロジェクト(通称・緊プロ)」を進化させたものであり、CEO主管の全社プロジェクトとなっています。
各ビジネスグループから開発に適した人材を集めて総力を結集し、開発スピードを2倍に高めることを合言葉に、新規事業の早期創出を目指しています。現在、EVエコシステムに取り組む「I-001プロジェクトチーム」と、生成AIをテーマに活動している「I-002プロジェクトチーム」があります。
いずれもキーになるメンバーが集まった組織であり、議論が促進され、全社にも波及しやすい体制となっています。I-Proの1つとして生成AIに取り組んでいることからも、当社がこの分野を重視しているかが分かると思います。私は、I-Proは「シャープらしさ」を取り戻すには必要不可欠な取り組みだと思っています。
―― それはなぜですか。
種谷 私は、「シャープらしさ」は脈々と残っていると思っています。SHARP Tech-Day'24に50以上ものNext Innovationを展示できるということは、まさに「シャープらしさ」が根づいていることの証です。その点は全く心配していません。
ただ、欠けていたのはビジネスグループ主体の縦割りの開発体制によって、新領域に対してアグレッシブさがなかったという点です。縦割り組織では、イノベーションが生まれにくいのも事実です。組織横断で、CEO主管のもとに推進するI-Proは、「シャープらしさ」を取り戻すことにつながると考えています。
―― シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、「シャープらしさが戻るまでには数年かかる」と言っています。時間がかかりますか。
種谷 CEOの立場で見れば、利益を得て初めて「シャープらしさが戻った」といえます。ただし、CTOである私の立場では、今「シャープらしい」商品や技術を出さないと、3年後には利益が出ません。少しでも早く「シャープらしい」商品を出すことが私の役割です。
―― シャープは、2024年度からスタートした中期経営方針の中で、デバイスのアセットライト化を打ち出しています。これまではデバイス(技術)とブランド(商品)がスパイラルで相乗効果を発揮し、シャープの成長を支えてきました。これが崩れることになるのではありませんか。
種谷 もともと当社のデバイスは、シャープの商品の特徴を出すために開発/生産を行ってきました。基本は内需向けです。しかし、途中からそのバランスが崩れ、他社のためのデバイスを作るところに力を注ぐようになりました。デバイスのアセットライト化は、それをもとに戻そうとしているものであり、決して、完全にデバイスをやめるわけではありません。
開発は継続し、当社のブランド商品を特徴づけることができるのであれば、それはデバイスに埋め込んだ方がいいと判断するものもあるでしょう。デバイス開発は、当社のブランド事業を大きくするというミッションの元に投資することになり、他社の事業を特徴づけするデバイスに投資することはしません。
かつてはスパイラル戦略という言い方をしていましたが、結果としてデバイスを売るための投資になっていたという反省点はあるにしても、その考え方は残っています。つまり、スパイラル戦略の形も変化することになります。
今後は、CE-LLMとブランド商品のスパイラルもあるでしょう。また、CE-LLMをLSIに埋め込んだ方がいいと判断すれば、デバイスのスパイラルが生まれるかもしれません。
関連記事
創業111周年を迎えたシャープのターンアラウンド 技術を軸にエッジAIで他社と連携も CTO兼R&D担当役員に聞く
シャープが操業111周年を記念し、イベント「SHARP Tech-Day」を開催する。本イベントの狙いやこれまでの取り組み、そして未来への挑戦を同社常務執行役員 CTO兼R&D担当の種谷元隆氏に聞いた。大型掲示装置やSTEAM教材の展示も充実――「NEW EDUCATION EXPO 2024」で見た教育の未来
6月6日からの3日間、東京都江東区で教育関係者向けイベント「NEW EDUCATION EXPO 2024 TOKYO」が開催された。この記事では、電子黒板を始めとする「大型提示装置」と、STEAM教育に関する注目すべき展示を紹介する。絵文字のルーツはシャープの電子手帳? AIoTクラウドが日本の製造業を支援する理由
ポストコロナ時代に入り、業界を取り巻く環境の変化スピードが、1段上がった。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。大河原克行氏による経営者インタビュー連載のAIoTクラウド 後編をお届けする。シャープ初の社内スタートアップは成功できる? 波瀾万丈のAIoTクラウドが目指す道
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第13回は、AIoTクラウドの松本融社長だ。初代LibrettoやDynaBook J-3100に会える! 「ダイナブック大作戦 in 秋葉原」で35周年を迎えたdynabookを振り返ってきた
8月9日と10日の2日間、Dynabookが秋葉原でリアルイベント「ダイナブック大作戦 in 秋葉原」を開催している。dynabook(DynaBook)誕生から35周年を記念したイベントで、同社の最新PCを通してAI(人工知能)を体験できる。この記事では、1日目(8月9日)の様子をお伝えする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.