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約5万円切りのMRヘッドセット「Quest 3S」に触れた 低価格化で空間コンピューティングを攻めるMeta、ARグラス「Orion」による技術革新も間近に迫る本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)

本記事では現地で実際に体験した「Quest 3S」のインプレッションをお届けしたい。

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“真のARグラス”をうたう「Orion」も披露

 Metaは同じイベントで「Orion」というARグラスの試作品も披露した。


ARグラス「Orion」

 同社が約10年の歳月をかけて開発した、独立型のホログラフィック(と、彼らは呼んでいる)ARグラスのプロトタイプだ。このデバイスをマークザッカーバーグ氏は「世界で最も高度な眼鏡」と呼んだが、確かに興味深い機能を備えている。


見た目は普通のメガネに近い

 このARメガネが搭載するディスプレイは視野角が約70度と広く、高解像度で細部まで表示できるという。このディスプレイを実現するため、レンズ部の周囲に超小型のプロジェクターを配置し、ナノスケールの3D構造を持つウェーブガイドを通じてレンズ内に映像を投影する。

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 周囲の照明条件が変動しても、実用上、問題のない明るさを保ち、シアターレベルのディスプレイを空間上に表示したり、複数のディスプレイを同時に表示したりできるという。


一般的なメガネに近しいサイズながら、MRを実現する

Metaは“真のARメガネ”をうたう

 映像は透明なレンズの中に投影されるため、ユーザーは一般的なARグラスと同じように、現実世界とデジタル情報の融合した風景を見られる。

 搭載するチップはMetaの独自設計で、眼鏡のフレームに収まるバッテリーで駆動するほど省電力設計だという。現時点で、バッテリー駆動時間は公開されていない。

 操作性に関わるインタラクションの方法もユニークだ。音声によるAIコントロールやハンドトラッキング、視線トラッキングに加え、手首に装着する神経インタフェースを通じて、細かなジェスチャーを検出できる。この神経インタフェースにより、公共の場で声を出さずに細かな操作ができるという。


手首に装着して使うリストバンドは、筋電位(EMG)センサーを内蔵している

実際にリストバンドを装着したところ

 現在の開発状況としては、当初目標の多くを達成しているが、さらにディスプレイシステムの鮮明さの向上、デザインの小型化と洗練、製造コストの削減を主な課題として引き続き開発を進めているという。

 MetaはOrionを“研究中のコンセプトモデル”(実現したい空想を織り交ぜた試作品)ではなく、“製品のコンセプトモデル”(製品化を視野に入れた試作品)だと強調していた。

 MetaはOrionの製品化を急ぐのではなく、完成度を高めてから市場に送り出したい考えだ。Orionで培った技術を元にした次世代ARデバイスを今後数年のうちに投入することが目標で、Orionは現在、Metaの従業員と一部の外部パートナーに限って試用されているという。

 ただし、次世代ARデバイスだけがOrionによって開発された成果を披露する機会ではなさそうだ。現在のコンシューマー向け製品や、今後の製品にも応用されるという。

 例えば Quest 3Sでは、Orion向けに開発した機械学習による空間認識アルゴリズムが実装されている。これは深度センサーなしに空間を認識する技術だ。

 また、視線トラッキングや小さなジェスチャーによる入力システムは、Orion用に設計されたものをQuestシリーズにもフィードバックする。さらに、筋電位(EMG)センサーを内蔵したリストバンドのテクノロジーも、将来のコンシューマー向け製品に活用することを検討し始めているという。

 MetaはOrionについて“数年以内”としかアナウンスをしていないが、米国のテックメディア向けにはインタラクティブデモが行われており、精密かつ簡素なユーザーインタフェースが実現されていると評判になっているようだ。

 ARデバイスの製品版が2025年のイベントですぐに登場することは期待できないだろうが、それほど遠い未来の技術というわけでもなさそうだ。

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