約5万円切りのMRヘッドセット「Quest 3S」に触れた 低価格化で空間コンピューティングを攻めるMeta、ARグラス「Orion」による技術革新も間近に迫る:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)
本記事では現地で実際に体験した「Quest 3S」のインプレッションをお届けしたい。
Quest 3Sが低価格を実現できた主な要因はレンズか
Quest 3Sが低価格である主な理由は、Quest 2と同様のフレネルレンズを使用していることにある。これは本体の厚さにも影響を及ぼし、Quest 3Sの厚みは約73.9mmとなっている。
Quest 3はパンケーキレンズを採用することで約62.3mmまで本体の薄型化を実現しているのでがっかりするかもしれないが、同じくフレネルレンズを採用していたQuest 2(約93.1mm)と比較すると、Quest 3Sは40%の薄型化を達成している。これは装着感の面でも明らかな差を生んでいた。
一方、重量に大きな変化はない。Quest 3Sは約514gと、Quest 2(約503g)との差はわずかだ。しかし、装着時の快適性はかなり高くなっていた。これは薄型化による重心位置の変化が影響していると考えるのが妥当だろう。
Quest 3(約515g)もQuest 2と比べて差はわずかだったが、装着感は向上していた。これも本体の薄型化によるものだった。Quest 2比で40%の薄型化は果たしたQuest 3Sもまた、薄型化によって装着感が向上したと考えられる。
なお、軽量化に関しては、バッテリー容量を増加させながら実現している点にも注目しておきたい。Quest 3Sは4324mAhのバッテリーを搭載し、平均的な使い方で2.5時間の駆動時間を実現している。
短く感じるかもしれないが、Quest 2(3640mAh)が1.5〜2.5時間だったことを考えると改善されている。ちなみにQuest 3は5060mAhと大容量のバッテリーを搭載しているが、ディスプレイなどの違いもあり、2.2時間と控えめだ。
さらにフェイスプレートから感じる圧迫が少なくなったこと、ストラップのデザインがQuest 3と同様のものに変更されたこと、フェイスプレートのパッドがより快適な素材になったことなども改善点として挙げられる。
フィットネス系アプリを使う場合の汗に対応するため、通気性の良いメッシュ素材を用いたライトシール(遮光用のパーツ)がオプションで用意されたが、こちらも快適性を上げるための良い選択肢となるだろう。
フィットネス系アプリに使われるQuestのシェアは高く、調査会社のDSCC/Counterpointによると、グローバルシェアの8割を占めている。このため、数多くのサードパーティーから、フィッティングを改善する多数のオプションが用意されることもQuestシリーズの魅力だ。今後新製品に向けて多数の選択肢がユーザーには生まれるだろう。
こうした各パーツの構成の違いによる差を除けば、MRを活用した機能の体験において、Quest 3SとQuest 3の違いは思いの外小さい。
Quest 3と同じカラーパススルー機能を搭載
Quest 3SはQuest 3と同じ約400万画素のRGBカメラを搭載している。周囲の様子を18PPD(画角あたり18画素)の解像度で写し出すことになるが、4.5分の1の解像度しかなかったQuest 2のモノクロパススルーとは比較にならないほど体験が向上している。Quest 3と比べても、装着時に感じるカラーパススルーの見え方は“ほぼ同等”に仕上がっている。
ただし、視覚的には極めて近い両者のパススルー機能だが、Quest 3がハードウェアによる深度センサーを搭載して空間の形状を識別しているのに対し、Quest 3Sは画像情報を元にした機械学習による推論で深度を推測する点が異なる。
この違いは複雑な空間形状の認識で違いを生む可能性があるが、短時間のインプレッションでは違いを感じるシーンはなかった。おそらく用途に依存するだろうが、ゲームなどを遊ぶ上では、ほとんど問題にならないだろう。
また、コントローラーとハンドトラッキング機能は、Quest 3と同一の技術で実装されている。リングのないスリムなデザインと、リアルな振動を生み出す「TruTouchハプティクス」で、自然で直感的な操作を実現している点は上位モデルと同じだ。ハンドトラッキング機能に関しても、Quest 3とQuest 3Sで体験に違いは感じられなかった。
思った以上に体験の差がないQuest 3とQuest 3S
実際に体験する前はQuest 3の低価格版という、あくまで下位製品というイメージだったが、実際に体験してみると、プロセッサの向上によるグラフィックスの質が上がっていることもあり、ディスプレイ解像度を含め体験の違いをほとんど感じなかった。
特にカラーパススルーの映像はほぼ同じと言っていい。VRゲームに興味を持つ層だけではなく、MRデバイスをPCなどの拡張ディスプレイとしても使いたい人にも向いている。機能的にはQuest 2からのアップグレードではなく、よりカジュアルにQuest 3を楽しむため、普及に対して野心的に挑戦する姿勢から生まれたお買い得製品といった印象だ。
特に価格が300ドルを切ったことで、北米では年末商戦での目玉商品になる可能性があるだろう。VR向けアプリケーションはMetaのHorizon OS向けにタイトルが集中しているが、その傾向がさらに強まることは間違いなさそうだ。
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