コラム

10年間“卒業”できなかったVAIOがノジマ傘下に入る理由(2/3 ページ)

VAIOがノジマに買収される――PC業界で大きな話題になっている。ソニーからスピンオフしたPCメーカーはなぜ、家電量販店のグループ企業になるのだろうか。その理由を解説していく。

いつの間にか“JIP最古参”になっていたVAIO案件

 このような経緯によって、企業としてのVAIOは2014年7月1日に事業を開始した。今年(2024年)で会社設立から10年経過するわけだが、この10年に間に何が起きたかというと、実は何も起きなかった。少し言い方を変えると、大きな赤字などは出していない一方、大きく成長した訳でもなく、安定して運営されてきた

 若干の紆余曲折はあったものの、本社工場は10年前と同じように運営されており、今でもVAIOの主要なPCの生産を担っている。筆者も10月に行ってきたが、ちょうど新製品の「VAIO SX14-R」の製造が佳境に入った時期で、忙しく製造が行われていた。

 一時期、VAIOは主力製品の製造を外部の工場(具体的には海外のEMS/ODM)で組み立てまで実施し、安曇野工場ではカスタマイズ(CTO)に対応するのみという時期もあった。しかし先述の通り、現在は主力製品は本工場で組み立て工程を行っている他、他の製品についても本工場で全量検品を行っている。ある意味で“日本クオリティー”を担保する拠点として機能しているのだ。

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VAIOが10月30日に発表したVAIO SX14-R(個人向けモデル)/VAIO Pro PK-R(法人向けモデル)

安曇野工場内のVAIO SX14-R/VAIO Pro PK-Rの組み立てライン

こちらは、同じく安曇野工場内の検査工程

検査工程は機械やAIも活用することで効率化を図っている

 しかし冷静に考えると、投資会社がカーブアウトされた(切り出された)事業を10年を超えて保有しつづけている(≒売却先を見つけられなかった)という事実は、VAIOの事業成長がJIPの期待ほどではなかったということを意味する。期待通り、あるいは期待以上に成長しているのであれば、高く買ってくれる売却先がすぐに見つかるはずだからだ。

 JIPによるカーブアウト事案としては、2014年にNEC(日本電気)から買収したNECビッグローブの事例も有名だ。NECは直営でインターネットサービスプロバイダー(ISP)サービス「BIGLOBE(ビッグローブ)」を運営していたが、2006年7月にISP事業を「NECビッグローブ」として分社した。

 JIPは2014年3月末にNECビッグローブの全株式をNECから取得し、NECビッグローブの商号は翌4月に現在の「ビッグローブ」となった。

 そして2017年1月末、ビッグローブはKDDIに売却され、現在ではKDDIグループのISP/MVNOとして活動を継続している。JIPは買収から3年弱で売却に成功したことになる。


JIPの投資案件として有名なビッグローブ(旧NECビッグローブ)のカーブアウト

 JIPのWebサイトを見る限り、VAIOは最も長く「投資中」のフェーズから脱せていなかったことは否定できない。“卒業”するきっかけを見いだせなかったのだ。

 もちろん、ISP/MVNO事業を手がけるビッグローブと、ハードウェア事業を手がけるVAIOでは、投資期間なども違っていて当然だし、直接比較することには無理があるかもしれない。

 しかし、投資会社から見れば「そんなの関係ねぇ」ことは否定できない事実でもある。10年以上も売れなかったという事実は、軽くない


JIPが手がけるカーブアウト(事業単位での会社分割)事案において、VAIOは投資中フェーズの“最古参”となっていた

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