インタビュー

「秘伝のたれ」を捨て、ルンバは生まれ変わる――iRobotチャプター11申請も「ワクワクしかない」とアイロボットジャパン新社長が語る理由IT産業のトレンドリーダーに聞く!(1/3 ページ)

コロナ禍以降、さまざまに移ろう世界情勢の中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行さんによるインタビュー連載の第20回は、米本社が連邦倒産法11条(チャプター11)を出したばかりのアイロボットジャパン 代表執行役員社長の山田毅さんだ。

 アイロボットが、大きな転機を迎えている。

 米国時間の2025年12月14日、米iRobotが連邦倒産法11条(チャプター11)の手続きを開始し、これを2026年2月までに完了させると共に、アイロボットのロボット掃除機である「ルンバ」の製造を委託していた中国のShenzhen PICEA Robotics(杉川机器人)およびSantrum Hong Kong(PICEA Roboticsの子会社)の完全子会社となり、再建計画を開始することになる。

 アイロボットの大きな転機に、日本でのカジ取りを担うのが2025年11月1日に社長に就任したばかりの山田毅(やまだたけし)社長である。今とこれからのアイロボットについて、アイロボットジャパンの山田社長に聞いた。

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 前編では、今回のチャプター11の適用申請と、中国企業による買収の影響などについて山田社長を直撃した。


東京・神保町にある本社でアイロボット ジャパン合同会社 代表執行役員社長 山田毅さんにお話を聞いた

米iRobotがチャプター11申請 それでも「社内は盛り上がっている」理由

―― 米iRobotは、米国連邦倒産法11条(Chapter 11)の適用を申請し、中国企業であるShenzhen PICEA Roboticsとグループ会社のSantrum Hong Kongによる完全子会社と、同社傘下での再建計画の実行を発表しました。アイロボットの日本法人社長として、これをどう受け止めていますか。

山田 米iRobotが連邦倒産法11条の手続きを開始したことは、非常に残念なことではあります。また、米NASDAQへの上場が廃止となるので、日本の株主のみなさまにはご迷惑をおかけすることになります。

 しかし、これはアイロボットの再生に向けての大きなステップであり、私たちは前向きに捉えています。この数年間、モヤモヤしていたものが、ようやく晴れたと思う社員もいますし、アイロボット社内はこの決定に大きな盛り上がりをみせています。

―― なぜ、アイロボットは米国連邦倒産法11条の適用を申請する事態に陥ってしまったのでしょうか。

山田 複数の要因が重なり合った結果だといえます。グローバル市場における中国メーカーの急速な台頭に対して、効果的な対抗策が打てなかったことに加えて、財務体質の悪化という点では、Amazonとの吸収合併に向けた準備のために発生した借入金が、経営に重くのしかかりました。

 また、その間に人員削減などの手を打って開発が一時的に停止してしまい、競争力が落ちてしまったこと、それが2年間におよんだものの、結果として規制当局の反対により、Amazonによる吸収合併が実現しなかったことなどが要因です。

 また、世界情勢の変化による消費動向の低迷、サプライチェーンの混乱やそれに伴う部品不足や物価上昇、さらには米国の関税政策も影響しています。ルンバはベトナムの工場で生産を開始しましたが、ここには40%の関税が加わりますから、最大市場となる米国でのビジネスに大きな影響を与えています。ただ今回、新たな体制へと移行することでアイロボットの置かれた立場は好転することになります。


米iRobotによるニュースリリース

―― それはどんな点ですか。

山田 1つは、ここ数年抱えていた債務が解消され、お客さまに貢献できるモノ作りを進めることができるという点です。PICEAはiRobotの株式の100%を取得し、iRobotのバランスシート上の債務を軽減させ、通常の営業活動を継続しながら製品開発計画の推進や世界規模での事業展開を維持できるようになります。

 これにより財務の安定性が高まり、ロボット技術やスマートホーム製品におけるイノベーションを継続して創出することが可能になります。財務構造をより強固にし、今後も継続的にアイロボットの価値を、お客さまに提供できる体制を整えられるわけです。

 もう1つは、モノ作りのメーカーと組むことができたという点です。これによって、最先端のビジネスモデルを構築できたと思っています。

 かつての家電のビジネスモデルは、日本の大手電機各社がそうであったように自社で部品を作り、それを自社の製品に組み込み、自社で生産するという垂直統合モデルでした。それが、市場環境の変化に伴い、海外生産拠点へのシフトが始まり、さらに海外OEMやODMの活用へと広がっていきました。

 アイロボットが実現する今回の仕組みは、さらにその先に踏み出すことができるビジネスモデルになります。PICEAは、ロボット掃除機のOEMとして世界最大の生産量を誇ります。独自の部品まで保有し、それが差別化につながります。

 一方、アイロボットは生産の機能は持っていませんが、ロボット掃除機メーカーとしてイノベーションをもたらすことができる設計および開発機能を持ち、全世界に営業/マーケティング体制を持つ企業です。

 つまり、お互いが持たないものを補完できる関係にあります。アイロボットが獲得した市場のニーズを、PICEAが持つR&D部門に対しても直接伝えることができ、よりニーズに合わせたモノ作りや開発スピードの向上、コスト削減効果などが期待できます。これからアイロボットが構築するビジネスモデルは、時代を先取りするものになるといえます。

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