レビュー

新モデル「ViXion2」で「ルーペ」から「日常の眼鏡」へ 9mm大口径レンズで劇的進化を遂げたオートフォーカスアイウェアが越えた一線と、見えてきた壁(3/3 ページ)

4月17日に発売されるオートフォーカスアイウェアの新モデル「ViXion2」は、前モデル「ViXion01S」で多くのユーザーから寄せられた「視野の狭さ」という最大の課題に正面から応えた意欲作だ。実機レビューを通じてその圧倒的な視野体験と、ViXionが挑む光学的アプローチの到達点に迫る。

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9mmレンズが越えた壁

 ViXion01のクラウドファンディングが行われていた当時、ViXionの南部誠一郎 代表取締役 CEOは「レンズ径をどれだけ大きくできるかにチャレンジしている。現在の2倍ぐらいの大きさにはできると考えており、そうなれば実用性は格段に増す」と語っていた。

 その言葉通り、ViXion2のレンズ径は前モデルの5.8mmから9mmへと拡大し、視野面積は約2.4倍を達成した。だが、これは単に大きなレンズを採用すれば実現できる話ではない。


ViXion01/01SとViXion2のレンズの比較。前モデルの約5.8mmから径で約1.5倍、面積で約2.4倍に拡大された

 ViXionシリーズが採用しているのは、「エレクトロウェッティング技術」による液体レンズだ。電気を通す液体と通さない液体を封じ込め、電圧の変化によって後者の形状を変えることで焦点距離を変化させる仕組みになっている。

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 カメラで世界を撮影してディスプレイに投影する映像処理的なアプローチとは根本的に異なり、光が目に届くまでの経路に余計な処理を一切挟まない。遅延はなく、映像劣化もなく、バッテリーへの負荷も最小限だ。

 ViXionの前身組織が、HOYA時代に開発した暗所視支援眼鏡「MW10 HiKARI」は、カメラと有機ELディスプレイを組み合わせた映像処理型デバイスで、本体だけで約130g、さらに別体のコントローラーが必要だった。ViXion2が約40~54gという軽量を実現できているのは、まさにこの光学的アプローチを選択した結果でもある。


エレクトロウェッティング技術の概要図

 だが、この選択はコインの裏表でもある。地球上で使う以上、液体は常に重力の影響を受ける。特にアイウェアではほとんどのシーンでレンズを立てた状態になり、液体は下側にたまってしまう。レンズ径が大きくなるほど液体の量が増え、重力による歪みも大きくなる。軽量化と光学的安定性の両立が、技術的な難題であることは想像に難くない。

 ViXion2ではこの問題に対し、液体の密度/粘性/レンズ径の3つを同時に最適化することで突破口を開いた。それでも重力の影響はゼロではなく、形状を保つために頻繁な補正制御が走っているというが、使用中にその挙動を意識することはない。

 なお、ViXion2の発表に際して、ViXionは「現在の液体レンズ方式ではこれ以上の大口径化は難しく、より大きなレンズには新しい技術が必要」とも明言している。約9mmというサイズは、光学的アプローチを選び続けてきた現行技術の到達点ということになりそうだ。


液体は重力の影響を受けて変形してしまう

現行技術の到達点と、その先へ

 ViXion01が「今までにない感覚」、ViXion01Sが「スタンダード」、そしてViXion2と歩みを進めてきた。ViXion01のクラウドファンディング開始から、約4年でここまで到達したことは率直に驚きだ。変更点はレンズの大口径化のみだが、それによって「補助的な道具」から「日常に寄り添うアイウェア」への距離が確実に縮まった。

 考えてみれば、カメラのオートフォーカスは当たり前の機能だ。スマートフォンがあれほど薄いボディーにAFを収められるのは、極小のレンズを極小の距離だけ動かせばよく、カメラが映像を完結して処理できるからに他ならない。

 だがアイウェアとなると、話はまるで違う。レンズの向こうに待つのは、人によって異なり、絶えず動き続ける「目」という不確かな終点だ。閉じた光学系ではなく、人間の身体と協調する開いた系の中でリアルタイムのオートフォーカスを実現しなければならない。

 しかも装置は顔に密着し、数十gという軽量でなければ日常使用に耐えない。カメラでは当然のAFが、アイウェアになった途端に桁違いの技術的難題に変わる――ViXion01が世界初と呼ばれたのは、その壁を初めて越えた製品だったからだ。

 一方で、ViXion2は現行技術の到達点でもある。その限界は、液体という素材の問題であると同時に、ViXionが選び続けてきた「光学的アプローチ」そのものの制約でもある。

 カメラで映像を取り込み、ディスプレイに投影するという方法でも、理論上オートフォーカスは実現できる。だがそこには重量/遅延/映像処理による画質劣化という三重の壁がある。ViXionの特筆すべき点は、あえて光学的アプローチを選ぶことで遅延のなさ、光学的な鮮明さ、そして圧倒的な軽量さを同時に達成したところだ。約9mmという限界は、その選択の結果として見えてきた壁でもある。

 今後考えられる方向性としては、価格の低廉化による市場拡大、レンズ周囲フレームの微細化による視覚的なノイズ低減、Auto PD(瞳孔間距離の自動調整)など周辺機能の進化といった道が浮かぶ。

 同時発表されたViXion2 Proのような専門用途特化型の展開もあり得るだろう。だが、最も本命であり、最も時間がかかるのが新たな光学技術の開発だ。現時点で液体レンズの競合はいくつかある。

 中でも、電圧で液晶分子の向きを制御することで焦点位置を変化させる「液晶レンズ」は、重力の影響を原理的に受けないため、大口径化に有利な最有力候補だ。フィンランドのスタートアップ「IXI」は液晶レンズとアイトラッキングを組み合わせた約22gのプロトタイプを開発中であり、国内でも大阪大学発のエルシオがフレネル液晶レンズ技術を用いたオートフォーカスグラスを開発している。両社とも2027年の発売を予定しており、ViXion一択の時代は早々に終わりを告げそうだ。


同時発売の専門職向けモデル「ViXion2 Pro」。チルト機構(0~30度)や耐薬品性素材を採用し、医療/研究現場での使用を想定している

 ViXion2が液体レンズという光学的アプローチの現在地を示した今、次の景色を切り開くのはどんな技術なのか。先行するオートフォーカスアイウェアメーカーとして、ViXionの飽くなき挑戦をこれからも注目していきたい。

 なお、5月17日までViXion2/ViXion2 Pro購入者を対象にViXion01/01Sを3万円で下取りを行うキャンペーンを行っている(動作確認不要)。さらに4月16日までViXion01/ViXion01Sのクラウドファンディング支援者を対象に、ViXion2の1万円引きクーポンが配布されている。

 ViXion2はViXion01Sの完全上位互換であり、コスト以外に買い換えを控える理由はない。ぜひともこの機会に約9mmというレンズの視野を手に入れてほしい。


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