Macに足りない3つのポイント:元麻布春男のWatchTower(2/2 ページ)
MacBook Airを筆頭に2008年も話題を集めているMacだが、筆者はどうしても物足りなさを感じてしまうことがある。それは……
窮屈なデスクトップPCのラインアップ
このMac Proのアップグレーダビリティに関する問題には、もう1つ別のハードウェア問題が潜んでいる。それはハードウェアラインアップの問題だ。
本来、アップルはMac Proをワークステーションとして位置づけている。本体価格が高価(最小構成でも28万7850円)であること、CPUの2ソケット構成、FB-DIMMの採用など、その仕様からもMac Proはワークステーションと呼ぶにふさわしいし、製品紹介などで価格比較される際に登場するのも日本ヒューレット・パッカードやデルのワークステーションだ。企業が利用するワークステーションの場合、利用するアプリケーション、そのアプリケーションに対してバリデーションされたハードウェアの組み合わせでリースされることが大半であり、利用途中でのアップグレードに大きなウエイトは置かれない。
しかし、現実にはかなりの数の個人ユーザーが、Mac Proを「ハイエンドのMac」として購入している。現在市販されているコンシューマー向けのMacは、拡張性に乏しく、モバイルアーキテクチャをベースにしていることもあって、性能の面での制約も存在する。デスクトップMacの上位モデルであるiMacは液晶ディスプレイ一体型であり、これを望まないユーザーもいる。iMacとMac Proの間を埋める製品がない以上、iMacに飽き足らないユーザーは、望むと望まざるとにかかわらず、Mac Proを買うしかないのである。ワークステーションであるMac ProがハイエンドのMacにならざるを得ない製品ラインアップにも、ハードウェア構成の窮屈さが現れている。
Mac Proほどでなくても、それなりの拡張性を備えたミニタワークラスのMacを望んでいるユーザーも少なからず存在するのだろうが、それが実現する可能性はあまり高くないと筆者は思っている。すでに述べたように、Macはハードウェア、ファームウェア、OSが密接にかかわりあって、その世界が成立している。例えば標準で採用されているスロットイン方式の光学ドライブだが、イジェクトがソフトウェア処理されるため、ユーザーはストレージデバイスのマウント解除を意識せずに済む。こうした積み重ねこそがアップルの考えるMacの体験であり、ハードウェアがサードパーティに広く開放されたWindowsの世界とは、また違う世界を構築している。それはプラットフォームがPCと同じインテル製になっても変わりはしない。
“哲学”を持つことの功罪
1984年に登場した初代Macintoshは、それまでのApple Computerの代名詞でもあったApple IIと異なり、拡張性を持たない一体型のコンピュータとして登場し、ユーザーを驚かせた。本体は、当時、ほとんど知られていなかったトルクスネジ(TROX)で固定されており、ユーザーのアクセスを拒んでいた。ユーザーが何も足さないでいいコンピュータ、おそらくそれが当時のスティーブ・ジョブズ氏の目指した方向性だったろう。そして、氏の基本的な方向性は今も変わっていないのだと思う。それは最新のMacBook Airにも現れている。
将来的にMac OSが現在のWindowsのように、ジェネリックなPCハードウェア全般で動作する汎用OSとなるような日がくれば話はまったく別になるだろうが、近い将来においてそうなる日が来るとはとうてい思えない。iPodの大ヒットもあって、アップルの業績はPCベンダの中でも上位であり、株価水準はトップクラスだ。企業として現在の方向性を変える必要は今のところない。
よくも悪くもMacは、ある哲学の元に作られており、それと相容れない人も存在する。また、そうであるがゆえに、Macの世界においては、ユーザーがある程度Macの仕様(具現化した哲学)に合わせざるを得ない。それが苦痛な人、どうしても相容れないこだわりのある人には難しいプラットフォームだと思う。その点、固有の哲学を持たないWindowsの方が万人向けかもしれない。
関連記事
- アップル、厚さ19.4ミリの“0スピンドル”モバイルノート「MacBook Air」を発表
アップルがモバイルノートの新作「MacBook Air」を発表。13.3インチワイド液晶を搭載し、厚さ19.4ミリ、重量約1.36キロを実現している。 - 「MacBook Air」から「Time Capsule」まで、4つのテーマで語られたスティーブ・ジョブズ氏基調講演
「世界で最も薄いノートPC」が登場したMacworld Expo 2008。iTunesの新サービスやiPhone/iPod touchのアップデート、Time Machineを活用する新デバイスなど話題は多い。 - MacBook Airの秘密に迫る
Remote Discでネットワークブートは可能? マルチタッチの操作感は? ボディの強度は? ソニーの「X505」が与えた影響って?――MacBook Airについて判明したいくつかの事実と、面白い逸話を紹介する。 - MacBook Airの“薄さ”は本物だった!?
Macworld Expo 2008で発表されたばかりのモバイルPC「MacBook Air」が、日本の報道関係者向けにお披露目された。その質感は? - なぜMac OS Xを使うようになったのか
Webブラウザとメールは、PCで最も使われるアプリケーションだ。Leopardに標準添付の両機能はどうなのだろうか? - “日本語版”ParallelsとFusionの違いを把握する――MacでWindowsを動かす
MacでWindowsを動かせるのはBoot Campだけにとどまらない。仮想化ソフトの「Parallels」と「Fusion」の日本語版を試してみた。 - 正々堂々!LeopardでBoot Campを試す
「Leopard」で晴れて正式版となった「Boot Camp」は、β版から何が変わって何が変わらなかったのか。 - Dockとタスクバーに見るアプリケーション管理の共通点と相違点
新Mac OSのLeopardとWindowsを比べる本コーナーも第3回目。前回に引き続きユーザーインタフェース回りを見ていこう。 - FinderとExplorerに見るMac OSとWindowsの共通点と相違点
Leopardではユーザーインタフェースの基幹となるFinderに大幅に手が加えられた。WindowsでFinderに相当するExplorerとの違いを見ていく。 - Leopardに見るAppleとMicrosoftの共通点と相違点
ついにLeopardが発売される。Windowsユーザーの立場から見た「Leopard」はどのように映るのだろうか。 - Macworld Expoの会場で驚いた3つのこと
「There's something in the air」――モスコーニセンターに掲げられたこのバナーは何を示唆しているのだろう。Macworld Expoの会場から、開幕直前の様子や飛び交うウワサをリポート。 - 45ナノの“標準8コア”Mac Proは、高い? 安い?
アップルは、先日受注を開始した最新Mac Proの説明会を開催した。アプリベンチで最大2倍の性能を叩き出すこの新モデル、実は安い? - 「Mac? Windows? VMware Fusionならもう選ばなくていい」
Mac OS X 10.5 Leopardに正式対応した「VMware Fusion Version 1.1」日本語版パッケージの販売が始まった。VMwareのパット・リー氏が来日し、Fusionの魅力を語った。 - Macを新時代へといざなうOS――「Leopard」が変える未来
Mac OS X 10.5 “Leopard”は、Tigerに300の新機能を追加しただけのOSではない。今回はSpotlightを中心とした検索ユーザーインタフェースについて見ていこう。 - Leopardへの助走――Mac OS Xの誕生からTigerまで
2007年10月22日、アップルの時価総額がIBMを抜いた。10年前に誰がこんな事態を想像しただろうか。アップルにとっての21世紀、それは革命の始まりだった。 - System 7で幕をあけた激動の1990年代(前編)
System 7が登場した1991年からMac OS Xがリリースされるまでの10年。それはMacが大きく飛躍する一方で、アップルが窮地に追い込まれた激動の時代だった。 - 動画で見る「Mac OS X Leopard」
Mac OS X Leopardのインストールがすみ、さっそく使ってみた。“次世代”のユーザーインタフェースを動画で紹介していく。 - Macに宇宙が広がった日――写真で見るLeopardインストール
待ちに待ったMac OS X Leopardがやってきた。早速、パッケージのビニールをむしり取り、アップグレードインストールしてみた。 - “サンタ”になった新型MacBookをチェックする
最新OS「Leopard」をプリインストールする“Santa Rosa”世代の最新MacBookを検証する。GMA X3100でグラフィックス性能はどのくらい向上したのか? - ネットで集めた“アレな動画”をMacでiPod用に変換する
画面の大きなiPod touchの登場で、iPod上でのビデオ再生に興味を持ったユーザーは多いはず。収集した動画ファイルをiPodの再生形式に変換するツールは、Macにも十分そろっている。 - 連載:ちょっと気になる入力デバイス 第13回
軽・薄・短の無線キーボードに陶酔する――「Apple Wireless Keyboard」 - 連載:元麻布春男のWatchTower バックナンバー
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.