母に愛される、幸せな“お守り”──「富士通らくらくスマートフォン3」:矢野渉の「金属魂」出張編
PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。今回は「Business Media 誠」の出張版。このスマホは「僕らより時間がゆっくり流れている、親世代の“お守り”」なのである。
文と撮影:矢野渉
PC USERのカメラマンとして活躍。写真のクオリティにこだわるPC USERの製品レビュー記事において、製品の撮影はほぼすべて矢野氏が担当しています。
さらに、被写体とじっくり対話したからこそ生まれる“ほっこり”する文章も魅力。被写体への愛を120%語り尽くすPC USERの連載「金属魂」が人気です。今回は出張版としてBusiness Media 誠に登場していただきました。
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母の「お守り」
一人暮らしをしている母に携帯電話を渡し、いつでも連絡をとれるようにして、もう10年ほどになるだろうか。最初はときどき電話をして会話をしていたけれど、母はだんだんと耳が遠くなってきてしまった。電話口で大声を出すのが母を恫喝しているようで嫌になり、もっぱらメールでのやり取りが続いている。
たまに会いに行くと、母はいつも携帯電話と一緒にいる。眠るときもまくら元の充電器に置いてあるし、ちょっと近所に出かける時も両手で押し抱いて持ち歩いている。その様はちょっと可愛かったりする。
これは今の時代の「お守り」なんだなと思った。母はこの小さなガジェットによって確実に安心を得ている。何かあってもすぐに僕とつながるのだから。
後期高齢者の母はPCなどとは無縁の世代だ。携帯電話の電話とメール(これはすぐに覚えた)の機能があれば十分満足しているようだ。PCを買ってネット環境を勧めてはみたが、やはり画面上で長い文章を読むのが疲れるようで、それきりになっている。
でもそれでいいのだろう。情報が欲しければ雑誌を買う。物が欲しければお店に行く。母の周りでは僕よりもずっとゆっくりと時間が流れている。やがてその時間も止まってしまうのだが、その最後のところでこのささやかな「お守り」を渡せたのはうれしいことだった。
母に愛されるこの携帯電話は、なんて幸せな金属なのだろう。愛される金属は単なる「道具」ではないと思う。僕は自分の信じたカメラという「相棒」と一緒に、対話をしながらカメラマンという仕事を長くやってきた。だからその感覚がよく分かる。
次世代の「お守り」
愛される金属にはそれなりのデザインと質感が必須だ。しかし携帯電話はスマートフォンになってから、どれもこれも同じようなカタチになってしまった。タッチパネルが多くを占めるから、その他の部分のデザインが難しいのはよく分かるが。
今回、富士通の「らくらくスマートフォン3 F-06F」という機種を採り上げることになり、実機が僕のスタジオにやってきた。大竹しのぶさんがCMに出ているあのスマートフォンだ。大竹さんとは大学の同期なので、これも何かの縁なのかもしれない。
背景を決め、3色(赤、白、黒)ある中から被写体を選ぶ。ああもうこれは赤だ。圧倒的な存在感。この色はかつて見たことのない、落ち着いた赤だ。まさに「お守り」にふさわしい色だ。
ライティングを進めていくと、デザインされた流麗な本体のラインが浮かびあがってくる。老人用だから丸くしておけばいいんじゃない? 的なラインは全くない。あくまで硬質な、でも暖かい、絶妙なつくりこみだ。
この機種のすごさは「アイコン」という概念を捨ててしまったことだ。アイコンはPCを使っている人には馴染みのあるものだ。でも、携帯電話からステップアップしようとする、僕の母のような人間には意味が分からないだろう。
らくらくスマートフォン3は、よくあるスマホと同じタッチパネルながら、画面を“ボタン”のように押して操作する。画面に触れて、ボタンが認識されたらそのまま押しこむと機能する仕組みだ(らくらくタッチ:関連記事参照)。この感覚も初めてだった。タップするのが当たり前の“現役”世代の人には面食らう仕様だけれど、ボタンだと思えばむしろ自然だ。操作に時間が少しかかるけれど、僕の母のような時間がゆっくり流れている人たちには、むしろ心地よい仕様なのだ。
母はもう電話も使えないし、インターネットも覚える気はないようだ。でもこの「らくらくスマートフォン3」は母に持たせてあげたい。たとえ使える時間は短くても、「お守り」はこういうものであってほしいのだ。
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