林信行が読み解く「2つのiPhone」と「Apple Pay」:見た目では分からない大きな変化(3/3 ページ)
おなじみ林信行氏がAppleスペシャルイベントを振り返る。画面をさらに大型化した「iPhone 6 Plus」は、あり? なし? 「Apple Pay」は電子決済の“革命”になる?
電子決済の流れを変える「Apple Pay」
今回のAppleスペシャルイベントでは4つの重要な発表があった。1つ目はApple Watch、2つ目はiPhone 6とiPhone 6 Plus、3つ目はiTunes StoreでのU2の新作アルバム無料リリース(5億人の人に自動的に無料で提供する、おそらく歴史上最大のアルバムリリースとなる)。
そして4つ目、世界中のメディアがこれこそ最大の発表と見ているのがアップルの新しい支払いの仕組み「Apple Pay」だ。
筆者は自分の記事を通して何度も日本で大きなマーケットシェアを持つiPhoneには、日本のおサイフケータイの機能を搭載して欲しい。NFCではなくFeliCaを搭載して欲しい、と訴えてきた。
残念ながらその夢はかなわなかったが、アップルは後発の強みを生かして、さらにすごい仕組みを作って打ち出してきた。
製品を買う際、レジ横に置かれた非接触ICリーダーにiPhoneをかざして支払いをする点は、SuicaやEdyと一緒だが、プリペイド方式ではなく、使った分だけ後で支払うポストペイド方式、つまりクレジットカードと同じだ(おサイフケータイのアプリでいうと「QuickPay」などと同じ)。Apple Payはおサイフケータイの進化形というよりは、クレジットカードの進化形と言ったほうが正しいかもしれない。
Apple Payは、従来のクレジットカードと比べて、導入するお店と顧客の両方に大きな利点が用意されている。
導入するお店のメリットとしては、アップルによる追加の仲介料が一切取られないこと。クレジットカードの支払いでは、すでにお店側が何%かをカード会社に支払っているが、アップルがそれに加えてさらに何%かを要求することはない。
これはアメリカのメディアに報道されて分かったことだが、どうやらアップルはお店の側ではなく、銀行の側から支払い金額の0.15%を徴収しているようだ。
つまり、お店の側はNFCリーダーさえ用意すれば、ユーザーにとってメリットが大きな支払いシステムを利用できることになる(そしてNFCリーダーを導入すればGoogle Payなどのほかの支払いシステムにも対応できるようになる)。
それでは、Apple Payの顧客に対してのメリットは何か。1つは安全性だ。1度、対応クレジットカードをApple Payに登録したら、誰にでも簡単にのぞき見されてしまう原始的なクレジットカード番号とはおさらばできる。横からのぞけば簡単に分かってしまう4ケタのPINコードも過去の遺物だ。
これらの数字は、このカードが誰の所有物で今そのカードを提示しているのが確かに本人であるかどうかの確認に必要だったものだが、Apple Payではこの本人確認を、のぞき見できる数字よりもっと安心できる指紋認証「Touch ID」で実現した。
この仕組みは店舗での支払いだけでなく、アプリ内課金という形でEコマースでも利用可能で、これは今後の小売業に大きな変革をもたらしそうだ。
日本のオサイフケータイのアプリがプリペイド式中心なのは、スキミングといって非接触ICタグから情報を抜き取られることを警戒してという側面もあるが、Apple Payは指紋認証のTouch IDで承認するというプロセスを入れることで、このスキミングの心配がない。
そして、おそらくこれが、これまでのIT業界の流れをぶち壊す最も重要な特徴だが、アップルは「顧客がApple Payを使ってどんな商品をどこで買ったかなどの情報を一切収集しない」と宣言している。
これまでの電子決済のトレンドは、ビッグデータの獲得だ。顧客がどこで何を買ったかの情報を集め、その顧客におすすめの商品のダイレクトメールを送ったり、宣伝を表示したり、勧誘を行なったりと、顧客データそのものが大きな商品価値を持つようになった。これは最近、日本で起きたいくつかの情報事故を見てもよく分かる。
しかしアップルは、人々からなんでも情報を収集する流れとは逆に、一切そうした情報を収集しない宣言をすることで、「情報収集をしている」ほかの電子決済の会社(やポイントシステムの会社)を悪者に見えるようにしてしまった。これは今後の電子決済のトレンドに大きな波紋を投げかけそうだ。
表面上は大して変わっていないようでいて、熟考に熟考を重ねたより本質的、より人間中心のアプローチで他社を引き離す――まさにアップルらしい電子決済の革命が今、始まろうとしている。
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