現在、ネットの画像は一瞬でピャッと表示される。もはや何も感じないが、たまに昔を思い出すと「ピャッ」じゃないよという気分になる。あっさり表示されてんじゃないよ、ということだ。1999年当時、貧弱な回線で、80KBほどの画像がジリジリと表示されていたのは何だったのか。
動画となるとなおさらで、いつのまにか、すこしの金を払えば2時間ほどの映像を高画質で再生できる状況になっている。あのころ、3分ほどの粗い動画を必死で見ていたのは何だったのか。ほんとうに隔世の感がある。
ということで今回は、1999年頃のネットにおける「画像」と「動画」の話をしたい。
とにかく肌色関係を見ようとしていた
当時、画像を表示するには時間がかかった。小さなサムネイル画像を凝視して、それが見る価値のある画像なのか考える。動画の場合もそうで、数分の断片的なものでも、ダウンロードには時間がかかる。だから見る価値のある動画なのかを判断することに必死だった。本当に、回線が貧弱な時代だったのだ。
なお、ここまで説明なしに「画像」とか「動画」とか言ってきたが、そろそろ言っておかなければいけない。内容はおもにエロである。北極の大地を生きる白クマの画像や、大空に飛びたつ大量のフラミンゴの動画を見ていたわけではない。おもに肌色関係。そこはすみません。以下、肌色がらみの話。
これまでの連載で書いてきたように、私は15歳の時に自室のPCがネットにつながった。「自室のPC」であるところが重要だった。親の目が届かないからだ。PC自体は以前から家にあったが、それは居間に置かれていた。居間には家族がいる。それじゃあ意味がない。
もっとも、親の目の前でも平気でアダルトサイトを閲覧できるメンタル・タフネスがあったなら、今頃はベンチャーを起こして資産も2兆くらいあったのかもしれないが、私のエロに対するスタンスは「こそこそ」だった。それはもう平凡である。
「入口の問い」に緊張していた
ということで、「自室にPC」は「革命」と同義だった。私は早速エロを見ようとしたが、同時に「18歳以上」の文字列に緊張していた。アダルトサイトには「入口ページ」があり、「あなたは18歳以上ですか?」と問いかけられるのである。要するに「18歳未満は見るな」ということだ。まあ、そりゃそうである。正論だ。そして、「んなこといわれても見てえよ!」というのもまた、切なる願いだった。
もし私が、「分かりました。18歳まで待ちましょう」と澄んだ瞳でいえる少年だったなら、今頃は悟りをひらいて弟子が2万人くらいいたのかもしれないが、私のスタンスは「絶対やばい、でも絶対見たい」だった。ほんとに平凡である。
当時の私は、「18歳以上」の文字をクリックするかどうかで葛藤していた。とくに最初のうちは、すさまじい緊張感があった。果たして15歳の自分がこれを押しても大丈夫なのか。そんなことをすれば、非常にまずいことになるのではないか。
「まずいこと」とは何か。端的にいえば、警察が来ると思っていた。まだネットの仕組みを何も知らないから、認識がとても雑だった。とにかく何だろうが、悪さをすれば即警察だった。初心者はコンピュータを極端に解釈するものだ。ブラクラを踏んで「PCが爆発する!」とおびえていたように、15歳の男が「18歳以上」をクリックすれば、即座に警察が来るのである。
すなわち、PCに内蔵された何らかの機能によって自分の実年齢が解析され、すぐさま警察に通報がいき、数時間後には自宅前にパトカーが停まり、逮捕状を突きつけられ、手錠をかけられ、上着をかぶせられ、親が泣き、友人が驚き、教師が怒り、マスコミが集まり、ワイドショーがさわぎ、総理大臣がコメントを述べる(「この少年は日本国民の恥である」みたいなことをいわれる)。
もちろん、そんなことは起きない(大人たちはそんなにひまじゃない)。しかし最初のうちは、それだけの覚悟が必要だと思っていた。年齢を偽るストレスは非常に高かった。まあ、「そんなにストレスなら我慢しろよ……」と今は思いますが。
そして何度か恐る恐る「18歳以上」を押しているうちに、「あれ、大丈夫じゃん」と学習してしまい、その後はススーッと見るようになっていた。そしてそのうち実際に18歳をこえた。
正直者はヤフーに飛ばされる
ちなみに、入口の質問で正直に「18歳未満」をクリックした場合、ヤフーに飛ばされることが多かった。これはいま思い出すと笑ってしまう。よい子はヤフーに帰れということか。アダルトサイトに門前払いされた少年たちが、スゴスゴと帰っていく場としてのヤフー。さすがは検索エンジン最大手。
古い童話では、正直者は金の斧と銀の斧をもらえるが、この場合、正直者はヤフーに飛ばされるだけだ。何一つ得るものはない。やはり、童話と現実はちがうということか。
- 連載:「オレの知ってるネットと違う」記事一覧
関連記事
- 「身バレ」におびえながらネットをしていた頃のこと
「身バレ」を何よりも恐れていたあの頃。今はみんな“出ちゃってる”けどいいのだろうか。 - 昔のホームページにあった「リンク集」を完全再現してみた
2000年頃のホームページには欠かせないコンテンツだった「リンク集」。今思えば数々の不思議なしきたりがあった。 - ネット上にまだ「草が生えていなかった」頃の話
草が生い茂る現在のネットと、絶滅した「感情記号」について。 - あの頃の“ホームページ”は、アクセスするたびオルゴールの音が流れていた
インターネットが最高に楽しかったあの頃。孤高のブロガー・上田啓太の新連載、始まります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.