Appleは今後も開発者に支持されて勝ち続けられるか WWDC 2017の着眼点:本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)
珍しくハードウェアの発表が目立ったWWDC 2017の基調講演。うわさされた新製品が続々と登場する中、筆者は別の視点から基調講演を見ていた。
アプリ開発のハードルを下げることで活性化狙う
まるでWWDCの説明をしていないが、話を戻そう。今回の基調講演における一連の発表では、Appleは開発者たちとの関係強化を望んでいるのはもちろん、新たなフロンティアを共に開拓しようというメッセージがちりばめられていた。
もちろん、実際にそれらがどこまで「夢」を見させてくれ、夢を追うことで「実利」を得ることができるのかなどは検証が必要だろう。しかしいくつかの切り口で、Appleの考えるデベロッパーリレーションの方向性を垣間見ることができた。
中でもはっきりとしているのは、アプリ開発のハードルをさまざまな面から下げようという意図が見えることだ。
今回のWWDCには、最年少アプリ開発者として10歳のユマ・ソエリアントさん(オーストラリア)、最年長開発者として82歳の若宮正子さんが特別ゲストとして招待され、世界中から集まる開発者と交流を深めているが、ティム・クックCEOの基調講演の中でもこの2人が大写しで紹介された。
このような活動は急に始めたものではなく、長年取り組んできた動きの一環で、2014年にオリジナル開発言語の「Swift」を発表してからはさらに踏み込んで、プログラミングに参加するための間口を広げる活動をしてきた。2016年のWWDCでプログラムコード作成を助けるiPad向けアプリの「Swift Playgrounds」が発表されたことも記憶に新しい。
もっとも、フレンドリーな環境を構築し、プログラミングの間口を広げることで新しい層の発想を取り込むことはできるが、それだけでは前進にも限りがある。そこでAppleは今回、iOS 11にいくつかの開発者向け機能を用意した。
「ARKit」はAR要素をアプリに取り入れるためのクラスで、Unity、Unreal、SceneKitといった3Dライブラリと組み合わせて利用できる。ARKitはiOS 11が動作する全てのiPhoneとiPadで動作可能なため、iOS 11がリリースされれば、間もなく世界最大のARプラットフォームとなるだろう。
多くの端末で利用できる理由は、実装がシンプルだからだ。カメラで深度を計測しようとは一切せず、テーブルの形状が分かるようカメラの方向を動かしながらスキャン。その結果を元に「面」を認識し、ARオブジェクトを配置する。
実際にどこまで複雑なことができるかはハンズオンセッションでも見えなかったが、発想次第で誰もが簡単にARアプリを開発できるカジュアル性に重きが置かれているように感じられた。
「ARKit」を利用すれば、まるで実際のテーブルの上に置かれているかのように、iOSデバイス内蔵カメラからのリアルタイム映像と、照明や花瓶といった3Dデータを合成して、ディスプレイに表示できる。iPadの位置をずらしたり、ユーザーが移動したりしても、ディスプレイに表示された照明や花瓶はテーブルの上にあるように見え方が変わる
他にもニューラルネットワーク技術を用いた機械学習や自然言語処理を支援する機能も提供される。間口を広くすることの次は、奥を深く掘り下げたアプリ開発が行えるよう足元を固めているという印象だ。
アプリ経済の健全さを重視するApple
もちろん、アプリ開発の間口を広げ、発想力を生かしたプログラミングをサポートする環境を提供したとしても、経済的な循環が滞るようでは広がりには限りがある。
しかし、アプリを中心とした経済モデルを健全に働かせることこそが、プラットフォームを健全なものとする背骨であることをAppleはよく分かっている。
現在、App Storeでは毎日1800億本ものアプリがダウンロードされ、これまでに700億ドルの収益が開発者に還元されたという。こうした健全なアプリ経済を大いに助けているのが、実働するiOS機器にインストールされるiOSのバージョンがほぼ統一されていることだ。
iOS 10は実働するiOS機器の86%にインストールされているが、Android 7が動いている製品はAndroid端末全体のわずか7%にすぎない。Android端末でGoogle Playを利用するために必要な認証は、わずかな更新でも再度認証を得なければならず、また大きなアップデートでは開発のやり直しが必要となる部分も多いなど、現実的にバージョンを合わせていくことが難しい面もあるからだ。
アプリ開発者から見ると、これは最新バージョンのOSが持つユニークな機能を使うことへの躊躇(ちゅうちょ)となる、とAppleは主張する。言い換えれば、新しいiOSをリリースすれば、高い確率でアップデートしてくれる自信があるからこそ、ARKitのように新たな機能を加えるだけで、「世界最大の○○プラットフォーム」が出来上がるわけだ。
これはかつての「AirPlay」、今回iOS 11で発表された「AirPlay 2」などが、突如として多くの対応機器に囲まれたのと同じ仕掛けと言える。
こうしたアプリ経済の健全さを強化するため、AppleはiOS 11でApp Storeのデザインを全面改修する。具体的な機能は割愛するが、新たなアプリとの出会い、発見が生まれるよう、見た目のデザインだけでなく構造全体、アプリの解説フォーマットなどにメスが入る。ユーザーインタフェースデザインの面では「Apple Music」のアップデートに近い。
現在のApp Storeのデザイン、運用では、どうしてもジャンルごとに順位が固定化し、新たなチャレンジャーが逆転していくシナリオが描きにくい。それはゲームアプリなどで顕著だが、Appleがアプリとユーザーの出会いを上質に演出する仕組みを本当に作り上げることができれば、状況は変化する可能性がある。
GoogleのAndroidに対して大きく差をつけている分野でもあるだけに、大幅な改修が成功すれば、開発者たちのモチベーションを上げる一助となるかもしれない。
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