AmazonのメッシュWi-Fiルーター「eero」買収が意味すること:ITはみ出しコラム
AmazonがメッシュWi-Fiルーターのメーカーであるeeroを買収しました。この買収でAmazon Echoとスマート製品の連携がよりスムーズになることが期待できる一方、データの扱いについては気になるところもあります。
米Amazon.comがメッシュWi-Fiルーターのメーカー、米eeroを買収しました。これで、スマートホーム事業でライバルのGoogleにあってAmazonにはなかった重要なピースが埋まります。
家庭内で「Amazon Echo」や「Google Home」のようなスマートスピーカーに話し掛けてスマート家電を操作するには、同じWi-Fiネットワークにつながっていないといけません。例えば、1階のキッチンにあるAmazon Echoに2階の子ども部屋のスマートブラインドを上げさせるとか、リビングのEcho Dotから玄関の鍵をロックするとか、広い家だと1つのルーターでカバーするのは困難です。
そこで、メッシュWi-Fiルーターの出番となります。文字通り、Wi-Fiネットワークをメッシュ(網の目)状にはりめぐらすためのルーターです。複数購入して家の要所にセットし、1つの広いWi-Fiネットワークを手軽に作ることができます。
今回Amazonが買収したeeroは、モデムに直接つなげる199ドルのメッシュWi-Fiルーター「eero」と、コンセントに直接差して無線中継するための149ドルの「eero Beacon」を販売しています。
米Googleは2016年10月に「Google Home」と一緒にメッシュWi-Fiルーターの「Google Wifi」を発表、同年12月に1台129ドルで発売しました。日本でも1万5000円(税別)で販売しています。
米国でのスマートスピーカーの発売はGoogleよりずっと早かったAmazonですが、スマートスピーカーを家庭内のどこでも使えるようにするための環境作りでは、後発なだけにGoogleが周到でした。
Amazonはeeroの買収により「顧客がスマートホーム端末をより手軽に接続できるように支援」できるとしています。ちなみに買収の条件や金額は公表されていません。
今回の買収についてシンプルに考えると、AmazonはこれでEchoを買おうとしている顧客に「広い家にお住まいならご一緒にeeroもいかがですか?」と勧めて、他社のルーターでつながらないトラブルなどを未然に防げる、ということになります。ユーザーとしても簡単にメッシュWi-Fiが構築できれば助かります。Amazon傘下になったことで、Google Wifi対抗のために値下げされるかもしれません。
eeroのニック・ウィーバーCEOは「Amazonの一員になることで、家庭の未来を定義する(Amazonの)チームから学び、世界中のより多くの顧客にeeroの製品を提供できるようになることを楽しみにしている」と語っているので、当面はeeroブランドを存続させるようです。
Amazonにより個人データが集まることにも……
一方、ちょっとネガティブに考えると、GAFAによる個人データの独占が注目される最近の流れの中では、「またAmazonに個人情報が集まるのか」という見方もあります。
eeroは家の隅々までネットワークを張り巡らすために、TrueMeshというアプリの「ダイナミックルーティングアルゴリズム」を使うのですが、このアプリは「数十万軒の実際の家から収集したデータと機械学習」で開発したとあります。
eeroを使ったら「自分の家のデータもこの数十万軒に追加されるのか。それがごっそりAmazonに持って行かれるのか」と思うかもしれません。実際、Amazonがeeroの買収を発表したとき、そうした世間の反応もありました。
eeroはすぐに、「eeroは顧客のネットでのアクティビティーを追跡していないし、買収によってポリシーが変わることはない」と公式アカウントでツイートしました。これまでeeroを使っていたユーザーの情報がそのままAmazonに渡るわけではなさそうです。
でも、本当にそうでしょうか? Amazonのeero買収発表の前日、米Bloombergに気になる記事が出ていました。「あなたのスマートライトはAmazonとGoogleに、あなたがいつ寝たかを報告できる」というタイトルです。
AmazonもGoogleも、音声アシスタントでサードパーティー製のスマート製品を操作した場合、これまでは操作のデータを集めてきました。例えば、Alexaに呼び掛けて、スマート電球をつけたり、スマートテレビでAmazonプライムビデオを見たり、といったデータです。
それが今、サードパーティーに対して「もっと連続したデータを提供」するように言っているというのです。つまり、スマート電球をAlexaで操作できるように設定したら、Alexa以外の手段で電球をつけたり消したりしたデータも、スマートテレビだったらAlexaではなくリモコンで操作した履歴のデータも、Amazonに提供するようにと。
あらゆる家電をAlexaで制御できたら便利ですが、あらゆる行動がAmazonに把握されるのは困りものです。いつ家に帰ったか、いつ寝たか、いつどんな番組を見たか、いつどんなおかずを温めたか……。
AmazonはBloombergに対し、「ユーザーデータを販売したりしないし、家電の操作を記録したステータスレポートの情報は広告に利用していない」と言いました。ステータスレポートの目的は、顧客にとって便利な機能を提供すること、としています。
ステータスレポートを提供したくなければ、これまでAlexaで便利に操作していた製品のAlexaとの接続を切るしかありません。最初から「全ての行動を収集する」と言ってくれれば、使わなかった人もいることでしょう。最初は少しの要求で、手放せなくなったころに要求を増やすのは、何だかずるいと思われるかもしれません。
この変更が、どんな形で発表されるのか、気になるところです。そっとアプリの更新で追加されるのか、「プライバシーポリシーを更新しました」で済ますのか、どういうことかをちゃんと説明してくれるのか。
今回に限らず、便利な暮らしとプライバシーのバランスは個人が選べるようにしておいてほしいです。AmazonとGoogleは、少なくともどこかのSNS企業よりは透明性を持っていると思うのですが。
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