Windows 10Xの迷走にChromebookの陰:Windowsフロントライン(2/2 ページ)
2019年の発表当初は「Surface Neoに搭載される2画面デバイスに最適化されたOS」という触れ込みだったWindows 10Xだったが、その役割も変わるようだ。そこには、GoogleのChromebookが大きく影響しているという。
拡大するChromebookの市場と忍び寄る影
前項の説明にあった(シングルスクリーン版)Windows 10X搭載PCが、どの商戦期を狙うのかという話だが、これまで説明した経緯にあるようにChrome OS、より具体的にはChromebookの市場を攻略するという意味で2021年夏時期のBack to School商戦を狙うのだと筆者は考える。
通常のコンシューマー市場を狙ったPCであれば、2021年末のホリデーシーズン商戦が最適だが、今の時点でChromebookの勢いを削いでおかないと、今後教育分野でMicrosoftが取り返すのが難しい状況に陥る可能性が高い。
このChromebookの現状について、西田宗千佳氏がImpress Watch上にまとめたレポートが理解に適している。
日本政府が学校へのスマートデバイス配置プロジェクトとして進める「GIGAスクール構想」について、ベンダー別シェアではAppleがトップの座に位置するものの、これがChrome OSベースの製品というカテゴリーで分けると43%の単独首位となる。MicrosoftのWindowsを搭載した製品はシェア3位であり、実質的にChromebookの2020年の躍進を受けて後じんを拝した形となる。
いずれにせよ、管理の容易さを軸にWindowsよりも安価な価格帯で“それなりに”動作するハードウェアが各社から供給されており、教育用途に十分なニーズを満たしている。2020年に日本でもこの傾向はさらに進んだと考えられ、おそらくMicrosoftが巻き返すのはこのままでは難しい。
米GoogleでChrome OS担当プログラムマネージャーのジム・デーノ(Jim Deno)氏が2021年1月に投稿したBlog記事によれば、Chromebookは提供開始から10年を経て順調に成長を続けており、現在では教育市場で4000万台のデバイスが稼働しているという。同氏の記事には年ごとの推移が紹介されているが、英語圏を中心にシェアが過半数に達しているところも少なくない。
この辺りはThe Informationの記事でも触れられている(要登録)。
同誌が調査会社IDCのデータを引用して報告するところによれば、2019年に米国の教育市場におけるChrome OSのシェアが62.5%、Windowsが30.42%、Macが7.08%だったものが、2020年にはChrome OSが63.96%、Windowsが30.05%、Macが5.99%となり、わずかではあるがWindowsとMacのシェアを着実に削っている。
iPadなどのデバイスも合わせれば、メーカー別ではAppleが単独1位となるのは米国でも日本と同じ状況だが、これはもともとAppleが教育市場に力を入れていた背景によるもの。それでもなお、Chrome OS勢の勢いを止めるには至っていないというのが現状だ。
これが結果として、教育以外の市場にも影響を及ぼしつつある。GeekWireの2021年2月16日の報道によれば、2020年に世界の“PC”市場においてChromebookがMacの販売シェアを抜いたという。
同誌の記事中でも触れられているが、もともとGartnerといった調査会社のPC市場の台数集計にはChrome OSデバイスが含まれないため見落とされがちだが、PCの世界シェアで1割強を維持するといわれるMacをChromebookが抜いたということは、既に1割以上のシェアを獲得していることを意味する。
2020年は半導体などの部品供給が追いつかなかったことで、PCが販売機会を失ったという話があったが、それでも市場そのものは成長している。IDCの報告によれば、2020年第3四半期に世界のPC出荷台数は前年比で14.6%成長し、同年第4四半期には26.1%もの成長を見せている。
近年、PC市場は横ばい、あるいは減少を繰り返していたことを考えれば、これは驚異的な成長率だ。それでもなお、この成長にChromebookが食いついてくるということは、いわゆる従来の“PC”という市場をChrome OSが浸食し、規模そのものを拡大させつつあるということを意味する。
筆者の予想では、コロナ禍もあり例年にない好況に沸いた2020年のPC市場だが、この反動は遠からずやってくる。もしそのとき、教育市場を地盤に支持を獲得したChromebookが引き続き市場を拡大させていくのであれば、Windowsが盤石といわれたPC市場を揺るがしかねない。おそらく、リリースに混迷を極めるWindows 10Xがその門出に慎重を期するのも、こうしたトレンドをひっくり返すだけの期待が込められていることの裏返しなのかもしれない。
関連記事
- 「GIGAスクール」端末シェアでAppleが首位に MM総研調べ
MM総研は、GIGAスクール構想で導入される端末のメーカー別出荷台数の調査結果を発表した。 - 2020年のPC出荷台数は新型コロナ対策需要で過去最高の1591万台 MM総研調べ
MM総研は、2020年暦年における国内PC出荷台数の調査結果を発表した。 - 学校向けPCのシェアはChrome OSがトップ MM総研調べ
MM総研は、「GIGAスクール構想実現に向けたICT環境整備調査」の結果を発表した。 - 国内では貴重なCore i7搭載のハイエンドChromebook「ASUS Chromebook Flip C436FA」を転がしてみた
ASUS JAPANとして初めて国内にChromebookを投入してから6年を経て、コンシューマー向けにハイエンドモデルを投入する。ASUSのChromebook初となる要素が満載の「ASUS Chromebook Flip C436FA」をチェックした。 - 内蔵ペンでタブレットとしても使える2in1モデル「ASUS Chromebook Detachable CM3」を試す
国内のGIGAスクール構想にコミットを続けるASUS JAPANから、新たに2in1のデタッチャブルモデル「ASUS Chromebook Detachable CM3」が登場した。実機を使ってチェックしよう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.