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Appleのティム・クックCEOが「VivaTech 2021」で語った注目する技術と未来の方向性iPhone 30は? Apple Carは?(2/3 ページ)

フランスのテクノロジーイベント「VivaTech 2021」が6月16日(現地時間)に開幕し、Apple CEOのティム・クック氏が登壇した。そこで語られた内容を林信行氏がレポートする。

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欧州のセキュリティ法案は賛成 アプリ市場の規制は反対

 プライバシーの問題に興味津々のラクロワ氏は、欧州から広まったGDPR(EU一般データ保護規則)についての見解もクック氏に求めた。

 クック氏はAppleが当初からGDPRを支持しており、これからも支持する考えを強調。全ての企業が多国籍化している今、GDPRはプライバシーに対する意識を世界中の企業に広げるきっかけになったとも付け加えた。

 クック氏はGDPRでも、まだプライバシー保護が足りていない部分もあり、そういったところは政府機関と連携していくともいう。

 2020年末、欧州連合ではIT企業を規制する欧州連合(EU)の欧州委員会が12月15日(現地時間)、IT企業を規制する「Digital Services Act(DSA:デジタルサービス法)」と「Digital Markets Act(DMA:デジタル市場法)」の2法案を発表した。

DSA
Digital Services Act(デジタルサービス法)の主な目標

 クック氏は、このうちGDPRなどを含むDSAに関してはユーザーのために有益な規制として支持を示したが、一方で、DMAに関しては「政府の規制には必ずしもユーザーの利益にならないものもあります」と異論を示した。

 DMAでは、iPhoneにApp Store以外で提供されているアプリもインストールできるようにすることを求める提案が盛り込まれている。

 「これはiPhoneの堅固なセキュリティを壊すことにつながり、プライバシー侵害のリスクを高めます。それはユーザーが望むことではありません」と補足した。複数のアプリ市場を許容しているAndroidには、iPhoneと比べて47倍近い量のマルウェアがあることを挙げ、App Storeの価値については顧客に理解されていると思うと楽観的な姿勢を示した。

DMA
Digital Markets Act(デジタル市場法)のメリット(欧州委員会の資料より)

 喜んで受け入れる規制もあれば、異論を持つ規制もあるというクック氏。どの規制がユーザーに有益で、どの規制は不利益かを見極め、不利益と思われる規制には責任を持って建設的な議論を行うのがAppleの責任と語った。

 フランスで開催されるVivaTechは、必ずしも技術礼賛のイベントではなく「Tech for Good(Tech4Good)」、つまり人々のためになる善良なテクノロジーを議論する場だ。ラクロワ氏からはクック氏が、陰謀論の拡散など「テクノロジーのダークサイド」をどのように捉えているかの質問もあった。

 クック氏は「テクノロジーは善悪を区別せず中立」と断った上で、そのテクノロジーが良いものになるか悪いものになるかは「それを作った人、発明した人の作る能力や共感性、そして熱意によって決まるもの」との見解を述べた。

 「米国では陰謀論などによってワクチン接種への悪影響が出ています」というクック氏。このような状況は技術によって引き起こされている部分があるが、DSAのような規制がそこで役に立つ可能性はあるとの見解も示した。

環境への取り組み自己完結した製造体制へ

 VivaTechではGreen Techなど環境に対する議題も多い。ラクロワ氏は続いて、Appleの環境への取り組みについて質問した。同社には確かに、問題に積極的に取り組むという姿勢もあるが、もう一方で、iPhoneのような機器を世界有数の規模で大量生産する企業としての側面もある。クック氏はこの両者をどのようにして両立しているのか。

 この話題に移ると、クック氏は表情を変えて声に力がこもり、情熱的に語り始めた。

 Appleは既に会社としてはカーボンニュートラルを達成しているが、最近ではカーボンニュートラルの捉え方を変えて、自社だけでなく自社と提携しているサプライヤーまでも含めた全体でのカーボンニュートラルを目指しており、2030年までには達成するという。

 「これは一般的に言われている2050年という厳しいスケジュールよりもはるかに積極的で、大胆な目標です」とクック氏。既に100社を超えるサプライヤーの賛同を取り付けているという。

 そんなAppleが最終的に目指しているのは「地球の環境に一切負荷をかけずに、iPhoneを作り出すこと」だという。

 「今はまだそこには至っていませんが、既にMacではアルミニウムの40%がリサイクルされており、iPhone 12ではレアアースの98%がリサイクルされています」とクック氏は語る。使用済み製品のリサイクルに向けた回収にも力を入れており、回収したiPhoneを部品にまで解体するロボットも開発している。

iPhone内部にあるTaptic Engineを分解するロボット「Dave」

 引退した製品を回収する仕組みと、リサイクルした部品で新しいiPhoneを作り出す仕組みをつないで、その中だけで回せるようにするのが究極の目標だという。

 環境問題と若い世代の話題も出た。

 クック氏は今の若い世代を「失われた世代」だとは思っておらず、「環境意識」や「人権意識」が高い有望な世代との見解を示し、最近、訪問したフードロス(食品廃棄)を減らす「Too Good to Go」という若い人が中心になって展開しているベンチャー企業にも触れた。

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