「ThinkPad」が生まれて30年 次の30年を占う2022年モデルはどんな感じ?(3/4 ページ)
1992年、当時のIBMが「ThinkPad 700C」を発売した。それから30年たった現在も、ThinkPadは「日本生まれの世界ブランド」として健在だ。次の30年の進化を見据えて誕生したという2022年のThinkPadはどのような特徴を持っているのだろうか。ThinkPadの開発を担うレノボ・ジャパンの大和研究所が説明した。
「ThinkPad X13s Gen 1」はなぜSnapdragonを搭載したのか?
2022年モデルのThinkPadでは、13型の「ThinkPad X13s Gen 1」も大きな注目を集めた。従来の「s」を付くモデルは通常モデルに対する薄型(軽量)構成を意味しており、確かに同世代の「ThinkPad X13 Gen 3」と比べると薄くて軽いモデルではある。
しかし、このX13s Gen 1はX13 Gen 3とは全く異なるモデル。QualcommのSoC(System On a Chip)「Snapdragon 8cx Gen 3」を搭載しているのだ。初めてWindows on Armを採用したThinkPadでもある(※2)。
(※2)ArmベースのSoCという観点では、過去にAndroidを搭載した「ThinkPad Tablet」がリリースされている
なぜ、Windows on Armを採用したのか。大和研究所のThinkPadプロダクトグループでCoC Japan マネージャーを務める園田奈央氏は、ハイブリッドワーク時代に求められる「次の当たり前」を実現する上でSnapdragon(Armプロセッサ)の採用は必要だったと語る。
先に塚本常務が触れたように、ハイブリッドワークが普及する昨今では、ノートPCを持って職場と会社を行き来するのはもちろんのこと、サテライトオフィスやレンタルオフィスを含む出先でノートPCを使う機会も多くなる。常にコンセントのある場所で作業できるとも限らないので、より長いバッテリー駆動時間の確保が必要となる。
そしてクラウドサーバ、あるいはVPN経由で社内サーバにある仕事のデータをダウンロードをするためにはインターネット接続が必要となる。Wi-Fi(無線LAN)が常にどこにでもあるとは限らないので、できればモバイル通信で場所や時間を問わずにデータのやりとりができると望ましい。持ち運んで使うとなると、持ち運びやすさも重要である。
バッテリー駆動時間、常にモバイル通信できる環境、持ち運びやすさを全てかなえるとなると、Snapdragonの採用が最適と判断したようだ。
ただ、ThinkPadはビジネス向けノートPCである。企業の管理者目線に立つと、今までのセキュリティソリューションや管理機能の利用可否や導入を進めてきたPC周辺機器との互換性は気になる所である。そこでレノボでは、SoCのサプライヤーであるQualcommや、OSのベンダーであるMicrosoftと密に連携を取ることで“従来の”ThinkPadと同じ使い勝手を実現できるように取り組んできたという。
ThinkPad X13sの開発に当たって、まず従来のThinkPadにおいて継承されてきた200を超える機能を「棚卸し」し、搭載する機能の優先順位を定めた。製品企画担当だけではなく、品質担保チームやサポートチームも巻き込んで、かなりの労力を割いて検討を行ったという。
その後、社内で検討した優先順位をもとに、Qualcommと要件のすり合わせを行った。さまざまなリスクを並べた上で「何ができて、何ができないのか」を検討し、それを踏まえてプロトタイプ(試作機)を作成した上で、実際の仕様を確定していったそうだ。
だが、仕様の確定後も、その評価について「壁」にぶつかったという。従来とアーキテクチャが異なるので、今までと同じツールを利用できない部分が発生したのだ。この点は、QualcommやMicrosoftと協議をしつつ解決していったという。
アプリの互換性については、Windows 11 on Armを利用して自社でテストを行った所、x86(32bit)/x64(64bit)エミュレーションを含めて80%を超えるアプリが正常に動作したという。MicrosoftやQualcommを含むパートナー企業と検証結果を共有することで、互換性をさらに高める取り組みも行っているという。
Snapdragonを含めて、ArmアーキテクチャのCPUは処理パフォーマンスを重視した「bigコア」と、消費電力の低減を重視した「LITTLEコア」の2種類を併載する「big.LITTLE」という構造を取っている。これがArmアーキテクチャのCPU(SoC)の電力効率が高い秘密……なのだが、高負荷な処理が意外と多いPCでは、bigコアが思った以上に働いてしまい、バッテリー駆動時間が短くなってしまうことがある。
そこでレノボは、ThinkPad X13s Gen 1において電源設定のチューニングを行っている。具体的には、通常はbigコアを用いる中負荷の作業をLITTLEコアで行うように設定しているという。これにより、消費電力をより低減できたそうだ。
最近のIntel/AMDプロセッサを搭載するThinkPadでは、膝の上で使っていることを検知すると自動的にパフォーマンスを抑える設定も行える。これはThinkPad X13sにも“移植”されており、電源設定を「最適なパフォーマンス」にしている場合でも膝上利用を認識するとパフォーマンスが抑制され、発熱による不快さを軽減してくれる。
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