現代美術における最も革新的な画家はiPadで描き続ける86歳 ホックニーがiPad絵画に魅せられる理由(3/3 ページ)
11月5日まで、東京都現代美術館で「デイヴィッド・ホックニー展」が開催中だ。ホックニー氏がさまざまなデバイスを使って絵画を続ける理由や、そこで開催されたiPadを使ったワークショップの様子を見ていく。
美術館がiPadで描くワークショップを開催
そんな新しいアートの開拓者、ホックニー氏の展覧会を開催している東京都現代美術館で、挑戦し続けるホックニー氏に感化されたのか、同館始まって以来の新しい取り組みが行われた。
「iPadで絵を描こう」という小学生以上を対象としたプログラムで「iPadとApple Pencilを使って絵を描いてみる」という体験を通して、絵を描くという行為の楽しさを再発見してもらうことを目的としたプログラムだ。
東京都現代美術館で9月3日に開かれたワークショップ 「iPadで絵を描こう」の様子(筆者が許可を得て撮影)。老若男女幅広い層が参加していた。使用したのはiPadOS標準のメモアプリながら、参加者はかなり素晴らしい作品を描いていた。描き上げた作品は額縁付きで印刷され記念として配布された。ワークショップ参加者の作品の一部は、美術館のInstagramアカウントでも公開されている
1回当たり約20名が参加するワークショップで、9月3日(日)の午前から合計3回開催された。実際に自分でも描いてみることで「ホックニーの表現をより深く理解する」という目的もあったようだ。
インストラクターを務めたのは、西中デザイン事務所の西中賢氏だ。同氏自身もこうした指導は初めてだという。
ワークショップで用意されたのは20台以上のiPadとApple Pencilだけ、お絵描きはiPadOS標準の「メモ」アプリを使って行うというものだった。
会場に用意されたテーブルには被写体として花が飾られており、これを小学校低学年から年配者まで幅広い層がホックニー氏同様にiPadで写生していた。仕上がった作品は記念として額縁のグラフィックと共にプリンタで印刷しプレゼントされていた。
何も特別なソフトを使わないワークショップではあったが、どこかに出品できそうなくらい上手に絵を描いている参加者もいれば、極めて個性的な絵を描く参加者もいて、画面上で見るデジタルの絵画でありながら、描いた人一人一人のパーソナルなストーリーを感じさせた。これは、昨今よく目にするAIで合成された絵ではそれらしく模倣することはできても、本質的には備わっていないものだろう。
残念ながら、ワークショップはこの日と10月に開催される2回目(既に予約受け付け終了)だけだが、最新のiPadとApple Pencilさえ手に入れれば、現代美術最高の画家とほぼ同じ条件で絵を描くことができる。
読者の皆さんも、ぜひとも1度、自分でもトライしてからホックニー展に足を運べば、展覧会もまた別の見方ができるのかもしれない。
関連記事
- 「デジタル時代に新たな花の文化を開かせる」――東信氏AMKKの滑らかなDX化と新たな挑戦
Apple製品を使い、これまでにない表現を続けるフラワーアーティストの東信(あずま まこと)氏。林信行氏が、花とデジタルツールとの融合や、制作にかける思いを聞いた。 - iPad1つで本格的な映像制作と音楽制作がこれまでになく身近に
Appleから、iPadシリーズ向けに映像制作アプリ「Final Cut Pro」と音楽制作アプリ「Logic Pro」がリリースされた。サブスクリプションモデルとなった両アプリを実際に試してみた。 - 「Apple Vision Pro」を先行体験! かぶって分かった上質のデジタル体験
AppleがWWDC23にて発表したMRヘッドセットが「Vision Pro」だ。これまでのAR/VRなどのHMDデバイスと何が違うのだろうか。林信行氏が真っ先にかぶって分かったことをまとめた。 - Appleの最新アクセシビリティー機能にみるインクルーシブな試み
テクノロジーが困っている人を助け、そして新たな発展へと結びつく――林信行氏が、ITメーカー各社のインクルーシブな試みを取り上げていく連載、第2弾はAppleを取り上げます。 - 林信行が見てきた「Twitter」の美学と信念 この十数年を振り返って
Tiwtterが大きく変わる転換点にある。サービスを当初から追い続け、Twitter創業者のジャック・ドーシー氏らとも言葉を交わしている林信行氏が、この十数年を振り返る。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.