iPad1つで本格的な映像制作と音楽制作がこれまでになく身近に:Final Cut ProとLogic ProのiPad版先行レビュー(1/2 ページ)
Appleから、iPadシリーズ向けに映像制作アプリ「Final Cut Pro」と音楽制作アプリ「Logic Pro」がリリースされた。サブスクリプションモデルとなった両アプリを実際に試してみた。
Appleらしい分かりやすく使いやすい操作デザイン――それでいて業務レベルの作品作りができる映像編集アプリの「Final Cut Pro」と、音楽制作アプリ「Logic Pro」。この2タイトルがついにiPadに対応した。
最初は「iPadのビデオ編集、音楽制作アプリが増えるのは良いこと」程度の受け止め方だったが、しばらく使ううちに「iPadとこれらのアプリの組み合わせは、日々の表現活動を根本から変えてくれるかもしれない」と思い始め、これらのアプリのためだけに現在使っているiPad miniからM2搭載iPad Proに乗り換えようという気持ちが芽生えてきた。
いずれも1カ月税込み700円(年間7000円)で使える手頃なアプリな上に、1カ月の無料トライアルもあるので、対応モデルを持っている人は、ぜひとも自ら試してもらうのが良い。ただ、先行レビューの機会をもらったので、筆者がこれらのアプリにどんなポテンシャルを感じたのかだけを簡単にまとめてみたい。
ちなみにiPad版Final Cut Proが対応するのは、M1/M2プロセッサ搭載のiPad AirまたはiPad Proシリーズ(要iPadOS 16.4以降)、iPad版Logic Proが対応するのはA12 Bionicチップ以降とiPadOS 16.4以降を搭載した製品になっている。
Final Cut Pro:マルチカメラ映像の制作がかつてなく簡単に!
iPad版Final Cut Proの可能性を一番強く感じたのが「マルチカム編集」機能だ。
複数のカメラで撮影した映像、例えば被写体にズームした映像と全景が見える映像などを切り替えながら1本の映像に加工する機能だ。
2〜3本の映像を「マルチカム」映像として登録すれば、後は映像を再生しながら、どちらの映像を採用するかタイミングを合わせて絵のサムネイルをタッチして切り替えれば、その通りの映像にできる。
Final Cutが登場したことで、iPhone+iPad(できればiPad Pro)を組み合わせてのマルチカメラ撮影と編集環境が整う。これはかなり画期的なことだ。Apple Pencilで映像の上に文字を描きこむなど、iPadならではの表現を取り入れているのも好感触である
同じ機能はMac版のFinal Cut Proにもあるが、iPad版では画面上に常に表示されていて簡単に呼び出せるようになっており、この機能が強調されている。実際、この機能がiPad(特にiPad Pro)で使えるようになることは、非常に大きな変化をもたらす。
これまでマルチカム映像を撮るには、iPhoneやデジタルカメラなど数台の撮影機器を持ち歩く必要があった。
これからはiPad Proと、iPhoneという普段から持ち歩く可能性が高い2台の機器だけでマルチカムの撮影も編集もできてしまう。というのも、iPadは映像編集機器であると同時に、映像を撮影するカメラでもあるからだ(Macにもカメラは搭載されているが、ビデオ会議用で美しい映像の撮影には使えない)。
外出先でちゃんと映像として残したい場面に出会ったら、iPadのカメラで全景を撮っておき、それとは別にiPhoneでも被写体を撮影しておく。撮影後、iPhoneの映像をiPad ProにAirDropすれば、即座にマルチカム編集できてしまう。
この撮影スタイルにはいくつものメリットがあるが、iPadが映像バックアップ機器となり、撮影後、iPhone側では撮影映像を削除して空き容量を保つことができるのも大きい。
iPad版Final Cut Proの登場で、Appleシリコン搭載iPadは常に持ち歩ける2カメ兼映像編集機器に生まれ変わった。このアプリがきっかけでプロフェッショナルライクなマルチカム編集の映像が、今後はさらに多くの人々に広まることだろう。
ちなみにiPad版Final Cut Proのマルチカム編集は、最大4つまでのカメラ映像の編集に対応しているので、これまで使ってきたデジタルカメラやカメラ専用のiPhoneも無駄にならない。
マルチカムのクリップには、最大で4つのカメラの映像を登録できる。登録後、再生しながら編集画面の一番下のアングルのサムネールをタップすると、アングルの切り替えのタイミングが記録される。よりプロフェッショナルに見えるマルチカム映像が、こんなに手軽に撮影できるようになったのは画期的なことだろう
続いて気に入ったのがHDR機能だ。今のiPhoneは優れたHDR撮影機能で、明るいところも暗いところも驚くほどきれいに描き出すことができるが、MacのFinal Cut Proは、こうしたHDR映像が出てくる前に作られたアプリなので、これらを扱おうとすると少し面倒な操作が必要になる。
これに対してiPad ProとFinal Cut Proの組み合わせなら、複雑な事前設定なしでHDR映像が扱えるだけでなく画面上でもHDRをきれいに再現してくれる。
でも、映像編集をやったことがある人なら、iPadのタッチ操作では、例えば映像をどこで切り取るかの再生ヘッド合わせなどで緻密な操作ができないのではないかと心配になる人がいるかもしれない。
実際はむしろ逆で、iPad版の方が緻密なヘッド合わせがしやすくなった。オプションで画面上にジョグダイアルを画面の左右のどちらかの端に表示させて、再生ヘッドの位置を微調整できるのだが、これがなんとも使い勝手が良い。今となってはMac版にも欲しい機能の1つだ。
他にもApple Pencilを使って手書きのタイトルやイラストを描きこむ機能や、機械学習を用いて被写体を認識し一発で背景を消してしまう機能(※三脚で固定して撮影する必要あり)、話している人の声だけを分離する機能なども用意されていたり、ソーシャルメディアのフォーマットに合わせて正方形や縦長などの形に映像を切り抜いたりする機能も搭載している。
あらかじめ用意されたタイトル、エフェクトも厳選した上で整理し直しが行われており、直感的で選びやすい。
映像を時間の経過と共に拡大したり回転させたりといった編集も可能だが、この部分はMac版のFinal Cut Proに慣れた人は最初だけ少し戸惑うかもしれない(限られた画面スペースをうまくやりくりして、表示位置が見直されている)。
いずれにしてもこれだけ本格的な編集ができるアプリが、カバンの中に雑誌や書類と一緒に収まってしまうiPad Proでできてしまうというのはかなり画期的なことだ。
2023年以降、このアプリをきっかけに本格的な映像発信をする人が増えるのではないだろうか。筆者もこのアプリが使えるなら、iPad miniからProへの乗り換えをしようと考えているところだ。
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