新型SoC「M3ファミリー」でAppleが示した“進化と成熟”:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)
AppleがMac向けに投入した「Apple M3チップファミリー」は、過去2世代と比べると変わった点が多い。現時点で分かっている情報をもとに、その変更点がもたらす影響を掘り下げて見ていきたい。【訂正】
Appleが11月1日に発表した新型の「MacBook Pro」「iMac」では、SoC(System on a Chip)が「Apple M3ファミリー」に刷新された。
MacやiPad(上位モデル)向けのApple Siliconは従来、台湾TSMCが保有する5nmプロセスで製造されていたが、第3世代のM3ファミリーは3nmプロセスとなり、回路の微細化が進んだ。3nmプロセスは、iPhone 15 Proシリーズに搭載されている「A17 Proチップ」では既に採用済みだが、Mac/iPad向けチップとしては初採用となる。
M3ファミリーの主な仕様は公開済みで、前回のコラムでも触れている。やや重複する部分もあるが、本稿では改めてM3ファミリーについて掘り下げて見ていきたい。
なお、本稿執筆時点ではM3ファミリーを搭載する新モデルをテストしているわけではなく、あくまでも取材を通して分かった範囲で述べる。この点はご了承いただきたい。
【訂正:11月7日22時】初出時、M2 Maxチップのトランジスタ数を誤って記載していました。お詫びして訂正いたします
プロセスの微細化で増加した「トランジスタ」 使い道は?
プロセスの微細化は、言うまでもなく同じ面積に集積(搭載)できるトランジスタ数の増加を意味する。
エントリークラスの「M3チップ」では250億個、その上位に当たる「M3 Proチップ」は370億個、さらに上位の「M3 Maxチップ」は920億個のトランジスタを集積している。
ここで注目したいのが、M2チップファミリーと比べた際のトランジスタの数の変化だ。
- M3チップ:+50億個(200億個→250億個)
- M3 Proチップ:−30億個(400億個→370億個)
- M3 Maxチップ:+250億個(670億個→920億個)
見れば分かるが、M3チップやM3 Proチップはトランジスタ数が増えている一方で、Proチップではむしろ減っている。この辺は、前回も指摘した「Pro」と「Max」の位置付けの変化を反映した結果なのかもしれない。
M3 Proチップは、過去世代よりも「エントリーチップの強化版」という位置付けが強まっている。プロセスルールが微細化されたことも相まって、ダイのサイズは先代のM2 Proチップ比でかなり縮小されているだろう。将来的に、M3 ProチップはMacはもちろん、「iPad Pro」など一部のiPadにも搭載しようと考えている可能性がある。
このようなProとMaxの位置付けの変化は、CPUコアの構成比率の変化からも分かる。
M3チップは、高性能コア(Pコア)が4基、高効率コア(Eコア)が4基の計8コア構成で、数字上はM2チップと変わらない。M3 Proチップは最大でPコア6基、Eコア6基の計12コア構成で、M3チップと同様にPコアとEコアの比率を「1:1」としている。
M2 ProチップがPコアとEコアの比率が「2:1」(Pコア8基+Eコア4基)だったことを考えると、M3 ProチップのCPUパフォーマンスに不安を覚えるが、実際は処理効率の向上もあり、パフォーマンスは下がっていない(詳しくは後述する)。
M3 Proチップにおけるトランジスタ数の“減少”は、主にCPUコアのバランス変更と、メモリインタフェースの帯域幅(≒チャンネル数)の削減による部分が大きいと推察している(この件も後述する)。
一方で、M3 MaxチップのCPUコアは、最大でPコアが12基、Eコアが4基の計16コア構成とされた。M2世代ではProもMaxも「Pコア8基+Eコア4基」という構成だったことを考えると「Pコアを増やしたのね」という感想を持ちがちだが、M3世代で比べるとProからEコアが削減されていることは見逃せないポイントだ。M3 Proチップは「Pコア全振り」になったともいえ、M2世代とは明らかに考え方が変わっている。
このようなバランス変更は、どのような背景で行われたのだろうか。
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