あらゆる障害に希望を与える「Access コントローラー」のカスタマイズ性――テクノロジーの発展を加速してきたインクルーシブな試み【SIE編】:林信行の「テクノロジーが変える未来への歩み」(3/4 ページ)
テクノロジーが困っている人を助け、そして新たな発展へと結びつく――SIEが投入したPlayStation 5向けの「Access コントローラー」を林信行氏が試した。
ゲーム機のアクセシビリティーがここまで盛り上がるのはなぜか?
進行性の難病である筋ジストロフィー症で生まれ、現在はeスポーツを通じて障害者の活躍支援事業を行っているのが、ePARAに務める格闘ゲームが好きの畠山駿也さんだ。
畠山さんは、19歳の頃からゲームコントローラーが持てなくなったという。その後は車椅子に取り付けたアームにDualSense コントローラーをくくりつけてそれをアゴでの操作を試み、アゴが傷だらけになった経験もあるというプレーヤーだが、今回発売前からAccess コントローラーを試す機会を得た。
![Access コントローラー PlayStation 5 ソニー・インタラクティブエンタテインメント CFI-ZAC1J 林信行 インクルーシブな試み SIE](https://image.itmedia.co.jp/pcuser/articles/2312/14/ht0704_j06.jpg)
畠山さんがAccess コントローラーを使って格闘ゲームをプレイしているところ。ジョイスティックをアゴで操作し、口で隣のボタンを操作する。加えて、両手の形に配置された治具にいくつかのボタンが配置されている
その彼の感想は「さまざまなボタンが用意されており、支援者と共に箱からボタンを取り出すだけでワクワクした」という。最初は筋力がないため押すことができるか不安だったというが、用意されたボタンのうちカーブボタンというものが、押すのではなく指をでっぱりに引っ掛けて引く操作で入力ができ相性が良かったという。
また、コントローラーに設定ウィザードが用意されていることに驚いたという。コントローラーを繋ぐだけでボタンの取り付けやコントローラーに関する説明が始まり、設定そのものがゲーム体験のようで楽しかったそうだ。
ゲーム中にAccess コントローラーの設定を変更したい際には、ボタン1つでコントローラーの設定画面に入ることができるので、ゲームプレイを中断することがなく、操作のカスタマイズが行える点も良かったという。
ジョイスティックは基本的にアゴで操作をする。車椅子に取り付けたアームの先にAccess コントローラーを取り付け、スティックがアゴの位置にくるように固定するため、ボタンが全く使えないことを心配していが、スティックに一番近いボタンをカーブキャップにして口を使ってボタン操作ができるように工夫したという。
筋ジストロフィーなどの進行性の病気では、少し前までできていた動きが時間の経過とともにできなくなってしまうことがあるが、そういった場合、カスタマイズを続けられることが重要になってくるという。
「工夫1つであきらめていたゲームにも挑戦できるAccess コントローラーは、遊びの可能性を広げてくれる素晴らしいデバイス」と畠山さんは評している。
もちろん、そうした製品は一朝一夕には出来上がらない。SIEは具体的な開発期間などは明かしていないが、この製品の開発にはかなりの試行錯誤を重ね開発期間もかけ、多くのテスターとやり取りを重ねたという。
製品の検証は、実際にさまざまな種類の障害を持つ人にやってもらわなければならない。「例えば視覚障害者向けの色の反転といった機能があるが、これがちゃんと機能しているかを確認してもらうには、その障害を持っている人に試してもらわなければならない」と語るのは、主にソフトウェア部分を担当しているSIE グローバル商品企画部2課の堀越朝さんだ。障害の形は人それぞれなので、用意した機能を検証してくれるテスターの確保も大変だろう。
主にハードウェア部分を担当しているSIEグローバル商品企画部1課 池ノ谷優一郎さんは「製品を開発しているのは健常者。自分たちがこれでいいかと思って改善したものが実際に障害を持つ人が試してみると、まだ問題があることもある。なので、フィードバックをもらったら、とにかく急いで2日とか3日の間に改善策を出すようにして再びフィードバックをするようにして開発をしました」とその苦労を振り返る。
こうして誕生したAccess コントローラーは、これまでのさまざまなアクセシビリティー機器との比較の中でも圧倒的に優れたカスタマイズ性を実現した。個人的には、その上でソニーグループの製品としての外観の美しさも保っていることも高く評価したい。
また、この機器が今後、ゲームへの利用だけでなく、PlayStation 5という高性能なコンピュータを通して他の表現活動や生活の補助にも活用されることを期待している。
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