Microsoftが提唱する「AI PC」とは何か:Windowsフロントライン(3/3 ページ)
Microsoftが、「AI PC」の普及に向けて着々と手を打ちつつある、その具体的な内容を見ていこう。
“AI P”Cの浸透には時間がかかる
TrendForceの発表ではAI PCの最低メモリ要件が「16GB」となっていたが、実用性を考えればミドルハイ以上のPCでこのメモリ容量は最低限必要と思われるため、社用や教育機関向けなどPCが更新されにくい環境を除けば、ある程度は納得できる(メーカー的にも必要メモリ容量を増やした方が何かとメリットがあるだろう)。
問題はAIパフォーマンスの方で、「40TOPS」が最低要件とされている。前述のSnapdragon X Eliteの場合、NPU部分(おそらくHexagonのユニット単体の処理能力を指すと思われる)のみで45TOPS、さらにCPUとGPUを組み合わせたときの最大パフォーマンスが75TOPSとしている。
対して、Core UltraはNPU+CPU+GPU全てを足した状態でのパフォーマンスが34TOPSであり、SoC単体では40TOPSの条件を満たせない。先ほどのボーデン氏のSurface新製品の話に戻すと、AI PCの説明会でなぜわざわざSnapdragon X Eliteベースだと思われる(もしくはMicrosoft向けに特別にカスタマイズされた専用SKU)SoCを搭載したArm版Surfaceを主役にするのかを考えたとき、こういう事情があるからでは……と考えるのは筆者の邪推だろうか。
いずれにせよ、世の中のPCの多くはArmベースではなく、IntelまたはAMDの製品だ。Intelの場合、NPU搭載ではCore UltraがノートPC向けに先行投入されたが、デスクトップ版ではArrow Lake(開発コード名)が登場する2024年後半から2025年にかけてまで製品は市場に出回らないし、現状のノートPC向けに改良版のLunar Lakeが登場して要求スペックを満たせたとしても、その浸透は早くて2025年以降だ。
PCのライフサイクルを考えれば、新機能がまんべんなく多くのラインアップに展開されるには3〜5年ほどの時間が最低でも必要であり、ハイエンドに限ったとしてもAI PCの要件を満たすのは2025年〜2026年くらいまではかかるだろう。GPUを強化してTOPSを引き上げることも可能だが、本来NPUの役割は「(AI処理に関して)低消費電力で高パフォーマンス」であり、ローカルPC上でLLMなどを実行できたとしても、それは本来Microsoftらが考えるAI PCの形ではないと思われる。
以上を踏まえて再度考察すれば、MicrosoftやOEMメーカー各社が不都合なくアピールできるAI PCの形とは、「これは2024年以降にやってくる未来のPCの姿である」といった具合に、さらなる新機能を体験したいのであればAI PCのスペックを満たしたPCを購入すべきだという形で、将来性をアピールするためではないかと思われる。
ローカルでAIが実行できなくても、処理そのものはCopilot経由でオンライン側に投げれば進めてくれるわけで、このサービス実行を有効化するためのスイッチをAI PCの条件を満たすPCを保持するユーザーは手に入れられるという扱いだ。
おそらくは、Copilotの利用で現在かかっている月額料金などを回避できるオプションが用意される可能性もあり、こういった点を2回行われるであろう“AI PCの発表会”でMicrosoftならびにOEMメーカー各社がどう見せるかに注目だ。
なお、最新OSでの古いプラットフォームの切り捨ては現在も進んでおり、例えば先日話題になった件で、Nehalem(開発コード名)世代より前のプロセッサを搭載するPCでは既にWindows 11が動作しなくなりつつあることが判明している。
POPCNTはSSE4.2以降で採用された命令セットだが、Windows 11を対象にコンパイラ実行時のターゲットから外されたことが分かる。さすがに「最新(でもない)演算命令くらい使わせてくれ」とは思うので必要な判断だと考えるが、全体にハードウェアスペックの引き上げ作戦は吉と出るのかどうか気になるところだ。
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