「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケ:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(2/3 ページ)
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第12回は、日本IBMの山口明夫社長だ。
量子コンピュータの活用で先行する日本
―― 一方で量子コンピュータは今、どんなフェーズに入っていますか。
山口 日本では、2023年10月に127量子ビットのEagleプロセッサを搭載した「IBM Quantum System One」が東京大学で稼働しました。また、2023年12月には、米ニューヨークで開催された「IBM Quantum Summit 2023」で、世界最高性能の量子プロセッサとなるIBM Quantum Heronプロセッサを発表した他、IBM初のモジュール式量子コンピュータ「IBM Quantum System Two」も発表しました。
量子セントリックなデータセンターの構築にも取り組んでおり、古典コンピュータとつないだ環境が、日本でも構築されることになります。量子コンピュータと古典コンピュータのいいところをそれぞれ生かした適材適所の使い方が模索され、量子コンピュータだけではできなかったこと、古典コンピュータだけではできなかったことが解決できるようになります。
素材研究や創薬での活用、金融リスク計算などが想定されていますが、日本の企業は量子コンピュータの活用では先行しています。実際、東京大学に設置した量子コンピュータの稼働率は100%を維持しており、世界中で最も稼働率が高い量子コンピュータとなっています。
日本企業の取り組みは各社の差異化部分になるため、具体的な事例があまり公開されていませんが、私たちが想定している以上の使い方をしています。将来的には、日本においても、IBM Quantum System Twoを設置したいと考えています。
さらに、2033年にはBlue Jayシステムとして、2000量子ビット、10億ゲートを実現するロードマップを新たに発表しています。エラー訂正による大規模な量子コンピューティングに留まらず、最終的には完全なエラー訂正を組み込んだシステムを構築することができるようになります。
―― IBMは、数年前まで「サービスカンパニー」になることを打ち出していましたが、2023年の動きをみると、「テクノロジーカンパニー」としての色合いを強く感じました。IBMは何の会社なのでしょうか。
山口 「テクノロジーカンパニー」であることを、特に強調するつもりはなかったのですが、結果として、その印象を強く持った方が多かったと思います。私自身は、2019年に日本IBMの社長に就任して以降、IBMが持つテクノロジーの強みについては訴求をしてきたつもりですが、2023年には半導体/量子/生成AIなどにおいて、IBMのテクノロジーに注目が集まったことで、「あれ? サービスカンパニーになるんじゃなかったっけ」とか、「半導体もやるのか」といった声が聞こえてきたのも事実です(笑)。
IBMの姿を表現すると、以前と変わらず、テクノロジーとサービスの会社だといえます。ただ、米IBMのCEOがジニー・ロメッティだった時代には、ITシステム全体を見ることができるインテグレーターとしての訴求を前面に出したことで、サービスカンパニーという色合いが強くなったといえます。しかし、2020年4月に、研究部門出身のアービンド・クリシュナがCEOに就いて以降は、テクノロジーカンパニーとしての色合いが濃くなっています。
IBMの立場から見ると、こうした最先端のテクノロジーがないと、5つの価値共創領域で掲げたITシステムの安定稼働やDX、サステナブルは実現できません。また、サービスを提供するにもテクノロジーを組み込むことが重要になります。テクノロジーの重要性は、これまで以上に増しているわけです。ですから、どちらかといえば、IBMはテクノロジーカンパニーであると言ってもらった方が適しているかもしれませんね。
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