「IBMはテクノロジーカンパニーだ」 日本IBMが5つの「価値共創領域」にこだわるワケ:IT産業のトレンドリーダーに聞く!(3/3 ページ)
不安定な世界情勢が続く中で、物価高や継続する円安と業界を取り巻く環境は刻一刻と変化している。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。大河原克行氏によるインタビュー連載の第12回は、日本IBMの山口明夫社長だ。
社会インフラを支えるITシステムの「1丁目1番地」は安定稼働
―― 2023年は、社会インフラを支える他社ITシステムの不具合が大きな問題となりました。日本IBMでは、5つの価値共創領域のうち、「社会インフラであるITシステムの安定稼働」を最初に掲げています。他社で発生している不具合を見て、日本IBMの姿勢にはどんな変化がありますか。
山口 安定稼働は当然のことではありますが、これを実現するには大変な努力を伴います。私自身、金融分野のシステム開発や保守を担当してきましたから、その大変さは身に染みて理解しています。
さらに、今のITシステムはさまざまなものとつながったり、あらゆるところで活用されたりしているため、1つのシステムに問題が起きると、その影響範囲が大きくなるということも起きています。中には、ITシステムの不具合が人命にかかわるような場合もあります。
安定稼働は最も重視しなくてはならない要件になっており、社会インフラを支えるITシステムにとっては「1丁目1番地」の要件です。だからこそ、当社では価値共創領域の1番目に「社会インフラであるITシステム安定稼働の実現」を掲げました。
まず毎日確認しているのは、社員が安全に仕事できる環境が整っているか、お客さまのシステムに問題が発生していないかという点であり、安定稼働をもっと深掘りして強固なものにしていくという努力は怠りません。
ただ、システムが複雑になり、人手だけでは安定稼働の維持が難しくなってきているのも確かです。AIなどの新たなテクロジーを活用して、安定稼働を支えることも必要になってきています。また、セキュリティをより重視する必要があります。日本はまだセキュリティが弱い部分がありますから、これも永遠の課題として取り組んでいきます。
―― IBMは、メインフレームに対して、継続的に投資する姿勢を打ち出していますね。
山口 メインフレームについては、3世代先のロードマップまで明確にしています。メインフレームは、IBMにとって重要な事業として投資を継続し、長期のロードマップをもとに、お客さまに対して、今後も安心して使ってもらえる環境を提供します。
IBMのメインフレームは、日本のコンピュータメーカーのメインフレームとは全く異なるものであり、正直なところ、ひとくくりでまとめてほしくはないという気持ちがあります。例を挙げると、IBMの最新メインフレームには7nmプロセスのIBM Telumプロセッサを搭載しており、オンチップAIアクセラレータや耐量子暗号技術なども搭載しています。最新のテクノロジーが搭載され、年間出荷処理能力は過去10年間で3.5倍以上に拡大しています。
確かに、メインフレーム上で動作しているアプリケーションはレガシーではありますが、30年前にCOBOLなどによって開発されたアプリケーションが最新のテクノロジーの上で動作させることができる上位互換性を保っています。
また、メインフレームではエンジニアの高齢化によって、COBOLで開発できる人がいなくなるといったことが、継続性や維持の観点で問題視されてきましたが、生成AIの登場によってアプリケーションが言語に依存しないという状況が生まれようとしています。
例えば、生成AIを活用することでCOBOLからJavaへと変換でき、その品質も劇的に進化しています。これまで課題とされていたことが、新たなテクノロジーの力によって解決されようとしているわけです。これからはCOBOL人材の不足は課題ではなくなり、その知識も不要になります。求められる人材は、作られたものが正しいかどうかを確認するスキルを持った専門家ということになります。
※インタビュー後編はこちら→「社長室と役員室はなくしました」 価値共創領域に挑戦する日本IBM 山口社長のこだわり
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