「社長室と役員室はなくしました」 価値共創領域に挑戦する日本IBM 山口社長のこだわり: IT産業のトレンドリーダーに聞く!(2/4 ページ)
ポストコロナ時代に入り、業界を取り巻く環境の変化スピードが、1段上がった。そのような中で、IT企業はどのようなかじ取りをしていくのだろうか。各社の責任者に話を聞いた。大河原克行氏による経営者インタビュー連載の日本IBM 後編をお届けする。
生成AI「watsonx」と日本語モデル「Granite」で日本企業のDX推進
―― こういった日本企業の意識改革も、日本IBMの役割ですか。
山口 私は、このことばかりを話していますよ(笑)。私自身は、テクノロジーは大好きですが、watsonxのテクノロジーの話はあまりしないので、「山口さん、watsonxはどうなっているの?」なんて聞かれます。watsonxはDXのためのツールの1つでしかありません。私の周囲では経営を変えたり、新たなビジネスを創出するために、新たなテクノロジーを使っていこうというアグレッシブな経営者が増えていることが心強いですね。
その一方で、経営会議では「他社がDXをやっているのに、うちはどうなっているんだ」という議論から始まる事例があるという話も聞きます。DXを経営の課題ではなく、ITの課題だと思っているから、こうした話になるわけです。また、ガバナンスを効かせるべく、新たなテクノロジーの採用に慎重な企業が見受けられますが、「攻めのガバナンス」という考え方も重要だと思っています。
―― IBM独自の生成AIであるwatsonxの強みはどこにありますか。
山口 watsonxは、IBM独自の基盤モデルを活用した生成AI機能を提供する「watsonx.ai」と、データとAIを管理するデータストアの「watsonx.data」、説明可能なAIワークフローを構築し、AIガバナンスを確保する「watsonx.governance」の3つのコンポーネントで構成されています。プラットフォームとして提供することで、最適な大規模言語モデルを利用でき、AI利用時のリスク管理、透明性確保、コンプライアンスにも配慮し、エンタープライズが利用できる生成AIとして提供することが可能になっています。
また、watsonx.dataに蓄積されたさまざまなデータを活用して学習し、watsonx.aiで動作させることができる大規模言語モデルのGraniteを発表しており、日本語性能を向上した「granite-8b-japanese」と呼ばれる日本語版モデルの提供も開始しています。
Graniteは80億パラメータと軽量で、インターネット/学術/コード/法務/財務の5つの領域から得たビジネスに関連するデータセットで学習を行っているのに加えて、IBMがビジネス用途向けにキュレーションしている点が特徴です。
Granite日本語版モデルでは、5000億トークンの日本語/1兆トークンの英語/1000億トークンのコードの合計1兆6000億トークンによる高品質データセットを学習するとともに、「日本語トークナイザー」と呼ぶ、日本語に特化した言語処理を導入したことで、長い日本語の文章を効率的に処理して、より高速な推論を実現しています。
また、好ましくないコンテンツを除去するための綿密な検査や、社内外のモデルとのベンチマーク評価も行っており、watsonx.dataとwatsonx.governanceとの連携によってリスクを軽減し、責任ある形で、モデル出力ができるように設計しています。さらに、テクニカルレポートを通じて技術仕様に関する詳細を公開するなど、Graniteモデルの学習に使用されたデータソースを公開し、透明性を高めることで、AIの適用をより安心して進められるようにしています。エンタープライズグレードの日本語能力を持つ大規模言語モデルだといえます。
今後Graniteをベースにして、日本の市場に合わせた業種特化型の生成AIを提供していく予定です。
これまでのAIは特別な企業や特別な人が作って、特別な人たちが利用するものでしたが、生成AIによって、みんなが作って、みんなで使える世界に入っていくことになります。そういった世界において、安心してAIを使ってもらうために、IBMが発起人となって国際的なコミュニティである「AI Alliance」を設立しました。日本の企業や大学にも参加をしていただいており、今後、さらに参加企業が増加することになるでしょう。AIイノベーションのメリットを誰もが安心して享受できるよう、責任あるAIの実現を推進していきます。
さらに、IBMでは、システム管理やプロジェクト管理、システム運用、障害対応といったところにも生成AIを活用して、やり方を大きく変えていこうと考えています。スキル不足や労働人口不足にも対応できます。
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