複雑化した日本のキャッシュレス決済を再びシンプルに――JCBと九大発のベンチャーが挑戦する「画期的購買体験」の提案(2/3 ページ)
ジェーシービー(JCB)と九州大学と提携するimago(イマーゴ)のシンクタンク部門「iQ Lab」が、BLE(Bluetooth Low Energy)とUWB無線を活用した新しい買い物体験「近づいてチェック」を開発/提案している。実証体験する機会があったので、感想を交えてレポートしたい。
始まりは「タッチしないタッチ決済」という発想
近づいてチェックに関わる技術開発は、JCBがりそなホールディングスやベスカと共同で立ち上げた「タッチしないタッチ決済プロジェクト」に端を発する。
昨今普及しているQRコード決済では、決済時にユーザーが「スマホを取り出す」「アプリを起動する」「QRコードの表示(または読み取り)操作を行う」「スマホの画面を提示する」という一連の操作が必要となる。
このプロジェクトでは、ユーザーの所有物とデバイスの位置特定技術を組み合わせて、シンプルかつ質が高いユーザー体験(決済)を実現しようとするというコンセプトを掲げた。ここでいう「デバイスの位置特定技術」として想定されたのが、BLEやUWB無線だ。
しかし技術開発に当たり、ジェーシービーは幾つかの課題を解決しなければならなかった。
1つはUWB技術の普及だ。UWB無線を使う場合、スマホだけでなく、レジにもUWB通信機器を搭載する必要がある。そうなると、パートナーとなるチップメーカー(あるいは機器メーカー)を見つける必要もある。通信行政上の心配もあるが、この点は自動車の鍵などでも利用されていることから、問題としては大きくないと見られる。
より重要なのは、スマホやOSを開発するメーカーがサードパーティーにUWB無線を使わせてくれるかどうかという問題と、ユーザーや店舗が技術を受け入れてくれるかという課題もある。この点については、Appleは「Nearby Interaction」というAPIを通してサードパーティー開発者もUWB無線を使う仕組みを用意している。またGoogleも、サードパーティー開発者向けにUWB無線を扱うためのAPIを用意している。少なくともOS(アプリ)レベルでは問題なさそうだ。
そして「ユーザーや店舗が技術を受け入れてくれるか」という課題について、JCBはiQ Labsと連携することにした。
先述の通り、iQ Labはimagoのシンクタンク部門だ。九州大学内に活動拠点を置き、ほとんどのスタッフが現役の同大生、または同大の卒業生である。コロナ禍における遠隔授業のサポート体制構築など、大学が抱える課題の解決から、Z世代/α世代が持つ“本音”のニーズを掘り起こす調査まで、さまざまな業務をこなしている。そこから派生して、調査結果に基づいた製品開発や、UX(ユーザー体験)デザインも手掛けている。
JCBからの相談を受けたiQ Labは、Z/α世代に対して買い物に関する調査を行ったところ、購買体験の煩雑化が客にとって大きなストレスになっていることに加え、レジ作業をする店員の負担増や接客トラブルの原因になっていることが改めて明らかになった。
キャッシュレス決済の多様化やポイントプログラムの増加、会員証アプリやデジタルクーポンの普及、環境対策……など、さまざまな要素が重なって、レジでの決済時に客が意思表示をしなければならないタスクが増えた。その結果、店員との口頭確認が増え購買体験が煩雑化。聞き間違いや伝え間違いによるトラブルも多く発生している。
このことは店員との対話に苦手意識を持つ若者が買い物を敬遠する一因となりうるだけでなく、「できればヘッドフォン(イヤフォン)を付けっぱなしにしていたい」という今時のライフスタイルにも合致しない。
そこでiQ Labがデザインした購入体験が、近づいてチェックなのだ。
本サービスが目指したのは、購買体験のワンストップ化だ。先述の通り、UWB無線を搭載したスマホに事前の設定を行っておけば、決済だけでなくサービスの要望も自動で伝達できる。聞き間違えなどのミスも防げるという意味で、画期的な購買体験ともいえる。
ただ、「いつもは弁当を温めないけど、今日だけは温めたい」「いつもは割り箸はいらないけれど、今日は必要」といったイレギュラーもあるだろう。その点については、レジの画面からその場で変更できるようになっている。
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