試して分かった新型「iPad mini」 欲張りすぎない進化で絶妙なコストパフォーマンスを獲得(2/3 ページ)
Appleから、最も小型なiPadとなる新型「iPad mini」が発売される。一見すると従来モデルから変わらないように思えるが、実際に試すと違いが浮かんでくる。林信行氏による先行レビューをお届けする。
欲張らないちょっとずつの進化で手頃な価格を維持
今回、そのiPad miniで人気のパープルのモデルを先行して試せたので、より詳しく魅力に迫ってみたい。パープルは前モデルのiPad mini(第6世代)にもあった色だが、従来はもっと色が濃く鮮烈な印象だったのに対して、新モデルでは、もっと繊細で薄い色になっている。
これまでは、どんな光を当ててもハッキリと紫色に見えたが、新モデルでは太陽光など強い光の下では、パーブル味が飛んでシルバーに見える淡さ加減で、光が弱まると紫が現れるという色の表情の変化を楽しめる仕上がりとなっている。
同じお手頃価格帯のタブレットを見ると、値段が安い分、ディスプレイの質を我慢しているものが少なくないが、Appleは「安い」「便利」で勝負をするテクノロジー企業ではなく、顧客をがっかりさせない品質と、そこから生まれる満足度と愛着で勝負をするブランドビジネスの企業だ。
iPadの名を冠する以上は、全てのスペックにおいて一定の水準をクリアするように心がけている。
ほとんどのスペックは基本的に従来のiPad mini(第6世代)と同じだが、ディスプレイも「Display P3」と呼ばれる広色域を表示でき、しっかりと光の反射を抑えるコーティングもされていて見やすい。カメラもSmart HDR 4と呼ばれるダイナミックレンジの広い(明暗差の大きな)写真や、4K(3840×2160ピクセル)動画の撮影にも対応した約1200万画素のもので、ビデオ会議などに使うフロントカメラも超広角の約1200万画素になっている。
他のほとんどのiPadが、ビデオ会議を意識してカメラ位置をスマートフォリオケースで立てた時に真上に来るように長辺に再配置している中で、iPad miniは相変わらず縦に構えた時に上に来る場所に残したままだ。
低コストを保つための仕様維持の可能性が大きいが、好意的に考えればiPad miniの軽さを考えると、iPhoneでのビデオ通話のように片手で持って縦の状態で使う可能性もある。
このように前モデルからそのまま継承したスペックが多い新製品だが、異なっている点を挙げると、下記のポイントに集約される。
- プロセッサ:A17 Pro(以前はA15 Bionic)
- メモリ:8GB(以前は4GB)
- ストレージ容量:128GB/256GB/512GB(以前は64GB/256GB)
- USB接続をした周辺機器のデータ転送速度:最大10Gbps(以前は5Gbps)
- Wi-Fi接続:2倍高速なWi-Fi 6Eを採用(以前はWi-Fi 6)
- Bluetooth:バージョン5.3(以前は5.0)
- ペン対応:Apple Pencil Proに対応(以前はApple Pencil 2に対応)
外付けストレージなどにデータをバックアップする速度や、対応ルーター下で高速な通信ができるのはうれしい限りだが、Bluetoothのバージョンの違いは、どんな意味を持つのか。
Bluetooth 5.3は、以前の5.0と比べて混雑したチャネルを回避することでデバイスの接続性を強化し、干渉を軽減したり、信頼性を向上させたりしているのに加え、スリープモードとウェイクアップモードの切り替えをスムーズにして消費電力を大幅に削減、またデータ送信を最適化し、応答性も良くしているという。
ただし、上記のスペックは使用条件によっても状況が異なり評価が難しいので、性能に関してはプロセッサの性能テストだけに焦点を絞りたい。
新型iPad miniが搭載するプロセッサはA17 Proで、このモデルから第○世代という呼び方は廃して、「iPad mini(A17 Pro)」というのが製品の正式なモデル名となった。iPad Air(M2)、iPad Pro(M4)といった他のiPadの呼び方にそろえた形だ。
A17 Proは、2023年登場のiPhone最上位モデル「iPhone 15 Pro」「iPhone 15 Pro Max」が搭載していたのと同じSoCだが、Geekbenchでのテスト結果はiPhone 15 Proよりも少し性能は劣っている。
一番パフォーマンスが要求されるGPUの性能とAI処理の性能に関しては、誤差の範囲の性能差しかなかったが、マルチプロセッサによるCPU処理が少し遅くなっている。とはいえ、日々の利用に支障が出るレベルの差ではない。
これまでApple Intelligenceに対応するモデルの最低ラインはiPhone 15 Pro/iPhone 15 Pro Maxとされていたが、それを少し下回る性能のiPad miniが登場したことで、この製品が新たな最低ラインになりそうだ(おそらく今後、新しいiPad標準モデルが登場した際には、iPad miniと同じプロセッサが搭載されるのではないだろうか)。
しかし、それによってApple Intelligenceの利用に支障が出るのかは、まだ判断できない。これまでのAppleの実績を考えるに、おそらくそうはならないようにソフトウェア仕様の設計をしているはずだ。今回のiPad miniは前モデルから3年ぶりのアップデートだったが、次のiPad miniの登場が再び3年後くらいだったとしても、少なくともそれまではApple Intelligenceを含むApple標準の機能は十分満足して使えると予想できる。
いずれにせよ、圧倒的な携帯性と愛着を最重視してスペック的には欲張らず、それでも全てをそつなくこなすというiPad miniのプロセッサの選択としては絶妙だったのではないかと思う。
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