「M4チップ」と「第10世代iPad」こそがAppleスペシャルイベントの真のスターかもしれない(1/3 ページ)
Appleのスペシャルイベントで華々しく登場した新しいiPad Pro/iPad Airシリーズだが、注目ポイントは他にあると林信行氏は語る。その心は?
iPad miniを除く、iPadシリーズが一新された5月7日のApple Event。イベント用に作られた映像での配慮の少ない過剰演出こそ不評だったが、発表された内容はその不評を払拭する勢いだ。
人気の「iPad Air」は、一回り大きい13インチモデルが加わり、動画視聴や読書、ゲームなど最も需要が大きい使い方をさらに快適に利用できるように変えている。
強く握るとペン先からツールが絞り出されるように飛び出てくるスクイーズ操作や、ペン先を回転させてストロークの向きを変えたりできるバレルロールの操作などに対応した「Apple Pencil Pro」は、筆などのアナログ筆記具に劣っていた表現を吸収するだけでなく、無駄なペン先の移動を無くし思考の中断を減らすことにも貢献しそうだ。
そして「iPad Pro」は、これまでのApple製品の中で最薄なだけでなく、プロの映像クリエイターが膝の上で映像の品質チェックができる美しいタンデムOLEDのディスプレイを備えながら、まだMacにすら搭載されていない最先端の「M4チップ」を内蔵している。
そんなApple Eventだが、この記事では既に多くの記事で紹介されているiPad Air、iPad Pro、Apple Pencil Proについては、遠からずまたレビュー記事を書くことになると思う。この記事では、それらでは触れない2つの注目ポイントに焦点を当てたい。
それは、「第10世代iPad」とM4チップだ。
日本の学校の未来のために頑張った「第10世代iPad」
筆者がまず注目したいのは、AirもProも付かない標準iPadの最新モデルである第10世代iPadだ。
2022年10月に発表されたモデルだが、一気に進んだ円安であらゆる海外製品が値上げされている中、何と価格が1万円も引き下げられ、5万8800円(64GB+Wi-Fiモデルの場合/税込み、以下同様)から購入できる。
これは、日本の多くの学校にとって非常に大きな意味を持つことだ。
iPad 10世代は5万8800円から購入できるようになった。円安が進行しているにも関わらず、2022年10月の発表時の価格から1万円値段が下がった。価格設定は明らかに日本のGIGAスクールを意識したものだ
日本では全国の児童/生徒1人に1台のコンピュータと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み、「GIGAスクール構想」がコロナ禍に入って前倒しでスタート。今では世界に誇れる、最も学習用デジタル端末が普及した国の1つに生まれ変わった。
このGIGAスクールでは、どのモデルを採用するかまでは定めておらず、学校や教育委員会がWindowsのPCやタブレット、Chromebook、iPadなどから選定して導入している。
政府から端末の購入費用として、全導入台数の3分の2ではあるが1台あたり上限5.5万円の補助金が用意される(2022年までは4万5000円)。
しかし、2023年から円安が一気に加速した。10月に発表された第10世代iPadに付けられた価格は6万8800円で補助金の額を大きく上回ってしまい導入が難しく、多くの教育機関は併売されている第9世代のiPadに期待を懸けた。
しかし今回、Appleは円安がさらに進んでいるのにも関わらず、同機の価格を1万円も値下げすると発表したのだ。この価格と、おそらく今後提供されるであろう教育機関用のディスカウントを組み合わせれば、第10世代iPadは来年度のGIGAスクール用端末として引き続き採用できる可能性が一気に高まった。
Apple Event開催の翌日(5月8日)からスタートした教育総合展「EDIX東京2024」には、ワールドワイド教育マーケティング部門ディレクターのリズ・アンダーソン氏Liz Andersonが来日し「これからの社会で必要なスキルを今、育むために」という講演を行った
iPadではなく、PCを導入する学校の中には、iPadではPCと比べてできることが少ないのではないかと心配する声もある。しかし、MM総研が2023年に行った調査によれば、89%の教育委員会が「iPadは生徒用デバイスとして十分な性能を備えている」と答えている。
それどころか研究レポートをまとめる際に、フィールドワークにiPadを持ち出しカメラで撮影して取材レポートをまとめたり、授業中だけでなく部活などでもダンスやスポーツの動きをカメラで撮影してチェックしたりと、iPadは教室の外でも活用される率が高いことが分かっている。
学校からあてがわれた端末を、学校が決めたカリキュラムの中で、ルールに従って使うといったデジタル端末の導入では、生徒たちも「学校から無理やり当てがわれた勉強用の機械」として端末に愛着が湧かず使う機会が減ってしまう。
これに対してiPadを導入している学校では、生徒や教員が工夫しながら、新しい使い方を模索していくといった活用が多い。こうした利用であれば、教科の内容を学ぶだけでなく、同時にコンピュータリテラシー、つまりデジタル機器を使いこなす能力も身についていくはずだ。
iPadは、まさにこういった自由度の高い活用を目指す学校から人気が高い。文部科学省が2023年に行った調査でも、iPadを導入した学校は他の端末を導入した学校に比べて、圧倒的に活用率が高いことが明らかになっている。
もっとも、この第10世代iPadからは充電端子がLightningからUSB Type-Cに変更された。学校側でLightning用の充電設備などのアクセサリーを既に用意していた場合は、ケーブルの交換を覚悟しておく必要がある(ただ、これはいつかは通る再投資だ)。
もちろん、第10世代iPadは生徒専用ではない。美しいディスプレイや十分高速なプロセッサを備え、キーボードやApple Pencilにも対応したiPadとして必要な要素全てに対応した製品で、しかも、現行の最新モデルだ。
GIGAスクールのおかげで、日本だけさらにお得感が増している第10世代iPadは円安時代の救世主的存在と言えるかもしれない。学校で次年度の端末を準備する時期になると、途端に製品が売り切れて何カ月も購入できなくなるので、それ以外の人で欲しい人は早めの購入を決断するのがいいだろう。
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