約3年ぶりにモデルチェンジした「iPad mini(A17 Pro)」を試す 外観からは分からないスペックアップでクリエイターにもお勧めの1台に:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/3 ページ)
Appleが「iPad mini」を約3年ぶりにモデルチェンジした。ぱっと見では先代と変わらない外観だが、外観から分からない部分が進化している。
見えづらいスペック向上が役立つ場面とは?
繰り返しだが、USB Type-Cポートの転送速度向上はiPad miniが活躍する領域を確実に広げると思う。
例えば、高性能な一丸カメラと共にフィールド撮影に持ち出せば、iPad miniとApple Pencilを使ってiPad版の「Lightroom」「Photoshop」などで素早く写真の内容を確認したり、RAW現像のパラメーターを調整したり、レタッチ作業をしたりといったことが出先でサッとできる。システムメモリも従来の4GBから8GBに増加しているので、メモリを多く使いがちなこの手のアプリも一層快適に使えるだろう。
上記のような作業のために今でもiPad Proを使っているという人もいるだろう。iPad Proのよく調整されたディスプレイと、Apple Pencilによる操作はカメラ撮影の愛好家にとって大きなメリットがあるからだ。
iPad miniの8.3型のLiquid Retina(液晶)ディスプレイは、表示品位の面でiPad Proのディスプレイには及ばない。しかし、約293gの軽さは、フィールド撮影時を始めとする出先での作業ではとても魅力的だ。また、表示品位はiPad Proにかなわないとはいえ、Appleが提唱する色域「Display P3」(※2)の要件を満たす広色域表示は可能で、カラーマッチングもよく調整されているため表示品位は良好だ。
(※2)「DCI-P3」をベースに、ガンマとホワイトポイントを「sRGB」相当に変更したもの
自動で色調を調整する「True Tone」、全面ラミネート加工や高レベルの反射防止コーティング、そしてディスプレイの輝度の高さは、他の小型タブレット端末ではほとんど見られない特徴だ。
今回Apple Pencil Proに対応したことで、スケッチ/ペイントアプリはもちろん、「バレルロール」を活用できる動画編集アプリなどを一層便利に使えるようになった。クリエイティブなツールとして、ワークフローに携帯性重視の端末を組み込むことができる。iPadを活用する医療現場などでも、従来とは異なるシーンで使えるようになるかもしれない。
Appleだけがタブレットの世界で“特別な能力”を持っているなどと言うつもりはない。ただ、iPad miniの優位性は、既にプレミアムなクリエイティブ作業にも使われていて、「エンドユーザー向けにタブレットでもここまでできる」ということを実証済みなiPadOSを搭載していることにある。性能さえ十分であれば、iPadOSの機能を生かすことでiPad miniそのものの用途を、プレミアムクラスのタブレット端末に寄せることができるのだ。
要するに、新しいiPad miniの優位性は、それ自身の能力あるいは企画の妙というよりも、OSも含めたAppleがこれまで重ねてきたアプローチがもたらした面が大きい。コンパクトかつ軽量なタブレットでありながら、同時にプレミアムクラスのタブレット端末と同様の使い方もできる――これは大きなアドバンテージといえる。
将来的には「Apple Intelligence」にも対応
新しいiPad miniは、Appleが今後デバイスの差別化を行う上で重要な要素と位置付けるApple Intelligenceにも対応する。
これは言語モデルを用いたAI(人工知能)ベースの機能だが、基本的に処理はオンデバイスで行われ、一部の複雑な質問のみ「プライベートクラウド」と呼ばれる独自開発のプライバシーを侵害しない処理を施したサーバで処理される。
このように書くと、常にオンラインであることが前提のiPhoneとは異なり、特にWi-Fiモデルではオフラインでの利用シーンも多いであろうiPad miniでは「Apple Intelligenceを使える場面が限られるのではないか?」と考えるかもしれない。
しかし、英語版でのテスト(β)運用を見る限り、ほとんどの機能はオンデバイスで完結できているので、そこまで気にする必要はないように思う。例えば写真から不要な要素を取り除く「クリーンアップ(Clean up)」という機能(Googleでいうところの「消しゴムマジック」に相当)はオフライン状態でも問題なく使える。また、文章作成の支援機能や、文脈を把握して文章を自動で清書する機能も、全てオフラインで動作可能だ。
挙動をよく見てみると、クリーンアップはオンライン状態だと応答が遅くなる傾向にあるため、恐らくは「オンデバイス処理」と「クラウド処理」の両方に対応していると思われるが、利用者はその違いを意識することは基本的にないだろう。結果を比較しても、ほとんど差を認めることができないからだ。
現状において「Apple Intelligence(AI機能)は必要ない」と考えている人もいるかもしれないが、今後Apple Intelligenceへの対応は“当たり前”のことになっていくだろう。
そうした意味でも、Apple Intelligence対応のSoCにアップデートされた意味は大きい。
iPhone 15 Proと比べてパフォーマンスはどうなのか?
「Geekbench 6」で新しいiPad miniの性能を計測してみたところ、以下のようなスコアを記録した。
- CPU(シングルコア):2803ポイント
- CPU(マルチコア):6600ポイント
- Compute(GPU):2万5719ポイント
当然ながら、いずれも先代のiPad miniよりも高いスコアだ。しかし、同じSoCを搭載するiPhone 15 Proシリーズと比べると一部のスコアが低いことが気になる。
“小さなiPad”であるiPad miniだが、iPhoneよりは大きい。一見すると放熱面では有利そうに思えるのだが、設計の都合で意外にも厳しいのだろうか……?
約3年ぶりのアップデートは意義深い
他のiPadシリーズと比べると、これまでのiPad miniシリーズのアップデートの頻度は低い傾向にある。生粋のiPad miniユーザーの中には「いつかiPad miniがなくなってしまうのではないか」と不安を覚えてきた人もいるかもしれない。
Appleは機種ごとの販売内訳を公表していないため、iPad miniが他のiPadシリーズと比べて売れているのかどうかは分からない。ただ、主な周辺アクセサリーである保護ケースや保護フィルムのラインアップを見る限り、iPadシリーズの中では“マイノリティー”であることは否めない。もしもAppleがミニタブレットのジャンル(=iPad mini)を必要ないと考えているのであれば、これまでに「iPad miniの新モデルを出さない」という判断はできたはずだ。
しかし、ペースが遅いとはいえ、AppleがiPad miniの投入を継続しているのは何らかの明確な理由があるのだろう。従って、今後もiPad miniへの投資は続けると思われる。
そもそも、iPad miniは機能的に他のiPadシリーズと比べて“何か”が欠けている、あるいは劣っている要素があった。これはある意味で「小型だから」と許容されていたからこそ、iPadシリーズの中で少数派になってしまったのだと筆者は考えている。
今回、A17 Proチップを搭載した新しいiPad miniは、購入しやすい価格帯とiPad Proが築いてきたクリエイター向け、あるいはプロフェッショナル向けタブレットのジャンルへの対応の両方に対応できる選択肢となった。
次のiPad miniの刷新がいつになるのかは分からないが、iPad ProやiPad Airよりも長い間、現役のカタログモデルとして継続される確率はかなり高い。ある意味で対象ユーザー、あるいは適する用途が限られている製品でもある。
そうした中にあって、iPad Proが目指してきたクリエイティブでプレミアムなタブレット端末の要素を満たしたのだから、ここは大きな節目として記憶されるモデルになるだろう。
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