まさかの“キーボード不要説”までさく裂した「HHKBユーザーミートアップVol.8」潜入レポート 132万円のHHKB Studio実機やニッポン放送吉田尚記氏も登場(3/4 ページ)
2024年12月に誕生から28周年を迎えるHHKB──開発元のPFUは、11月7日に「HHKBユーザーミートアップVol.8」を開催した。最新モデル「HHKB Studio 雪」の登場や、能登半島地震復興支援プロジェクトなど、HHKBを取り巻くさまざまな話題で盛り上がったイベントの様子をレポートする。
増えた3人のうちユーザーミートアップに参加していたニッポン放送の現役アナウンサー、吉田尚記氏がステージに呼ばれると、会場からは拍手が沸き起こった。
突然、ステージに呼ばれた吉田氏は「何をしゃべればいいんですかね」と言いつつも「会社の中で一番たくさんの企画書を書いたアナウンサーだと思う。大学院へも通っているので、研究計画書も書く。大量に文字を入力しているが、HHKBだと疲れない。いい万年筆を使うと、思っていた以上にたくさん書いてしまうのと同じ効果があると感じている」と、しっかりHHKBの良さをアピールしていた。
乾杯の音頭をとったのはHHKB首席エバンジェリストの松本秀樹氏だ。「首席じゃなくて“酒席”ですよ」と冗談を言いつつ、「28歳を迎えるHHKBが、末永く皆さまとビジネスを続けられること、皆さまのご健勝を祈念して……ヘンタイ!」と掛け声を掛けた。
まさかの「キーボード、最近使っていないな」発言も飛び出したスペシャルトークセッション
ゲストを迎えてのスペシャルトークセッションは「ワークスタイル変革 VR、XRの今後とHHKBの可能性」というタイトルで行われた。ゲストは東京大学情報学環教授/ソニーコンピュータサイエンス研究所 フェロー・副所長の暦本純一氏と、AI/ストラテジースペシャリストの清水亮氏、ファシリテーターはフリーランスライターでThunderVolt編集長の村上タクタ氏だ。
「名だたるゲストが……」と思っていたところ、登壇者全員がApple Vision Proを装着しているという異様な光景に会場はざわついた。村上氏はひっきりなしに右手の人差し指と親指で作った輪を上下に動かしているし、暦本氏も清水氏も、両腕を左右に広げたり、上げ下げしたりと挙動不審だ。
村上氏が「HHKBのインタフェースやキーボードのこれからについて語っていただきたい」と話を振ると、清水氏は「HHKB Studioにはポインティングスティックがついていてこれが良い。Apple Vision ProはHHKB Studioがあって完成する製品だと思っている」と語る。
「Apple Vision Pro内にもバーチャルキーボードが出てくるし、視線での入力や選択もできる。しかし入力しづらいし選択した位置が微妙にズレていて、それがクリティカルなミスを誘発することもある。家でも新幹線でも同じ環境で作業できるこの組み合わせは、自分にとってなくてはならないものとなっている」(清水氏)
最初のキーボードがテレタイプ端末の「ASR-33」で、次がDEC(Digital Equipment Corporation)の「VT100」だったという暦本氏は「そのせいで、今でも打鍵圧が強い」と振り返る。「1日使うと、右の小指が使い物にならなくなるくらいキーが硬くて、小指の疲れ具合でプログラム作業を終了させるといった具合だった。今考えれば、大リーグボール養成ギプスですね」と笑いを誘っていた。
「AI最新動向」のテーマトークでは暦本氏が「声を出さなくても声帯をセンシングして入力する技術も開発されているし、音声入力はAIのおかげもあり実用レベルに近づいている。聞き取りを間違えたとしても、AIが自動的に訂正してくれる。とはいえ、修正を考えると、やはりキーボードの方が入力は速いと感じている」と述べると、清水氏は「コンピュータとの付き合い方が最近変わってきている」と異なる意見を述べた。
「例えば、量子生物学で線虫を使った実験に何があるのかをChatGPTに声でたずねると、検索して自然言語で回答してくれて勉強になる。しかも、自分の質問もChatGPTの回答も文字として残る。残ったテキストを再度ChatGPTに投げ込めばまとめてくれもする。キーボードに触らずに本を書けるのではないか」(清水氏)
村上氏も「1時間ほどの散歩の間、『新製品をネタにして記事を書きたいので箇条書きでまとめて』とAIに話しかけると、キーボードを使わずに下書きが出来上がる」と、登壇者2人がまさかの「キーボードを使わない発言」を行うという異例の事態が生じていた。
しかし、「VRの世界では、結局キーボードはどうなっていくのでしょう」という村上氏の質問に対し、清水氏は「いるでしょう」と即答する。そして「コード書くのに必要でしょう」と付け加えた。
暦本氏も、「プログラム書くときに口で“include stdio.h”とか言わないから、いるでしょう」と答えつつ、「最近、首を痛めてしまい下を向くのがつらい。それで分割キーボードを自作した。腰の左右に装着し、ゴーグル(HMD)をかぶれば、歩いていてもコードが書ける」と自作分割キーボードを見せつつ説明した。
その流れでHHKBが今後、どのようになっていくのか、どうなってほしいのかというテーマに移ると、清水氏は「HHKB Studioにレールシステムでディスプレイやラズパイなどさまざまなモジュールを取り付けて、これ1つで仕事をできるようにしてほしい」と会場にいる松本氏に目をやりながら希望を述べた。
暦本氏は「分割キーボードのようなウェアラブルキーボードを作ってもらいたい。(HHKB)Professional(シリーズ)のような王道はあってもいいけど、それ以外は変態を作ればいいじゃない」と力説する。
その要望を肯定すべく、村上氏が「腰のあたりに装着できれば、電車の中でもこうやって入力できますしね」と実演してみせると、「ヤバい人ですね」「通報されますね」とすかさずツッコミが入っていた。
キーボード不要説まで出たトークセッションだったが、最後に村上氏が「今後のHHKBについて一言ずつお願いします」と話を振ると、清水氏は「HHKB Studioを作ってくれたことにマジ感謝してる。松本(秀樹)部長からこういうのが出ると聞いたときには、何を言っているんだこの人はと思ったけど、マジ最高」と現在の心境を述べてから次のように語った。
「音声入力が発達して精度が高くなっても、魂を込めた文章を書くときにはこれからもキーボードを使っていきたい。HHKB Studioは魂の相棒だし、この質量がHHKB Studioへの愛の現れだと思っている。キーボードがあるから、1文字1文字を入力しながら読者の感情をコントロールできる。世界中の人類がキーボードを使わなくなっても、自分は使い続けたい」(清水氏)
暦本氏は「筆記用具と同じでいいものを使うのは、これからやろうとしている作業への向き合い方、マインドに影響を与える、生活の根源的豊かさに違いが生まれる」という持論を述べ、次のように付け加えた。
「スーツに4万円しか掛けない人と40万円掛ける人がいる。毎日使うもの、触れるものに4万円しか掛けないで満足できるのか。最も触れているものに投資をしないでどうするの? と思ってしまう。いい加減なキーボードで人生を無駄にしないでほしい。もっとキーボードに投資してほしい。筆記用具に対するのと同じように、仕事で一番触れることの多いところに投資するというすばらしい文化を大切にしてもらいたい」(暦本氏)
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