HARMANの「Sound United」統合がオーディオ業界にもたらす影響 業界再編の呼び水になる可能性も:本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/4 ページ)
サムスン電子傘下のHARMAN Internationalが、Masimoのコンシューマーオーディオ部門「Sound United」を買収する――このニュースにオーディオ業界に激震が走った。このことは、どのようなオーディオ業界にどのような影響を与えるのだろうか。
音楽コンテンツのストリーミング配信への移行、スマートフォンとワイヤレスオーディオ機器の普及などで、オーディオ業界は1970〜1980年代のオーディオブーム、あるいはソニーの「ウォークマン」から始まったポータブルオーディオの時代とも異なる形で成長を続けている。
当然ながら、オーディオ業界における事業環境も変化を続けており、長い歴史を持つ(そして現在も多くのファンを持つ)オーディオブランドの再編も静かに進められてきた。5月6日(米国東部夏時間)に発表されたSamsung Electonics(サムスン電子)傘下のHARMAN International(ハーマン)によるSound Unitedの買収は、こうした動きの中でも特に大きな動きといえる。
Sound UnitedはMasimoのコンシューマーオーディオ事業部門で、傘下には日本発祥の「デノン(DENON)」、米国発祥の「Marantz(マランツ)」の他、イギリスの名門スピーカーブランド「Bowers & Wilkins(B&W)」といったオーディオファンなら誰もが知る、評価の高いブランドを保有している。
一方のHARMANも「Harman Kardon」「JBL」「AKG」など複数のブランドを保有する、世界で最も影響力のあるオーディオメーカーだ。そこにSound Unitedの持つブランドが“合流”するインパクトは大きい。「耳なじみのあるブランドが買収された」というロマンチックな感情以上に、オーディオ産業全体の再編がさらに進んでいく大きなきっかけとなるだろう。
本件は競合メーカーへの影響も避けられず、勢力図が塗り替わり、製品開発の方向性を変え、最終的に消費者の選択肢にも影響を及ぼす可能性が大きい。
あなたの知らない「HARMAN帝国」
先に少し触れたが、HARMANは世界で最も影響力のあるオーディオメーカーだ。オーディオ業界の人間ならば、同社がオーディオ業界の巨人であること良く分かっているだろう。
保有ブランドの1つである「JBL」は、かつては高音質スピーカーの代名詞だった。昭和のオーディオブームでは“ジムラン”の名称で親しまれたJBLブランドは、現在はカジュアルなワイヤレススピーカーを中心とした市場で大きなシェアを持ち、Bluetoothスピーカーではグローバルでトップシェアを誇る。
JBLよりも少し上の高級路線という位置付けで、HARMANのルーツともいえる「Harman Kardon」ブランドのオーディオ機器は、BMWやMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)の純正音響システムにも採用されている。「AKG」はスタジオ用マイクロフォンやヘッドフォンでその名を知らないものはいないだろう。
ハイエンドオーディオの世界では「Mark Levinson」を傘下に収めており、高価格帯のワイヤレスヘッドフォン、Lexus(レクサス)向けのカーオーディオとして富裕層やオーディオマニアが好んで選んでいる。「Infinity」「Revel」「ARCAM」「Lxicon」などもHARMAN傘下のブランドだ。
車載システムを得意としてきた歴史的経緯もあり、HARAMANは傘下のブランドをさまざまな形で自動車メーカーに提供している。デンマークの「Bang & Olfsen(B&O)」も、カーオーディオ部門はHARMANに売却しており、B&OブランドのカーオーディオはHARMANから供給を受けている。
HARMAN帝国を手に入れたサムスン電子
HARMANが持つブランドポートフォリオを2017年に約80億ドルで手に入れたのが、サムスン電子だ。同社はそれ以前からHARMANに出資していたのだが、自動車業界へのサプライヤーとして参入する“要”の戦略として、同年に完全子会社化した。
- →Samsung Electronics to Acquire HARMAN, Accelerating Growth in Automotive and Connected Technologies
HARMANの強みは、単に多数のブランドを保有することだけではない。先述したように、ポータブルスピーカーからハイエンドオーディオ、カーオーディオ、そしてプロ向け音響機器まで、音響の多様な分野で確固たる地位を築くブランドを持ち、それぞれのブランド価値や企業文化を守りながら共存させてきた点にある。
しかし、そんなHARMANのブランドポートフォリオでも、完全無欠かというとそうでもなかった。今回、HARMANがSound Unitedの買収に動いたのは、そんなポートフォリオの“穴”を埋め、あらゆるニーズにワンストップで対応できるようにするための動きといえる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
Sonosのサウンドバー「Arc Ultra」は“さり気ない”最新技術が光る コンパクトなのに良い音を実現した秘密は?
Sonosが1月に発売した新型サウンドバー「Sonos Arc Ultra」は、サイズの割に低音域の再生能力が高いことが特徴なのだが、実は見どころは他にもある。しばらく使った上で、その強みを語っていきたい。
ペットボトルサイズの“定番”Bluetoothスピーカー「JBL Flip 7」を試す 約3年ぶりの新製品で何が変わった?
2021年11月に発売した「JBL FLIP 6」の後継モデルで、約3年ぶりのモデルチェンジとなる。
Harman Kardon、5.1.2chサラウンドに対応した省スペース設計のサウンドバー「Enchant 900」
ハーマンインターナショナルは、Harman Kardonブランド製となる5.1.2ch再生対応のオールインワン型サウンドバー「Enchant 900」を発表した。
JBLの有線イヤフォン「Quantum 50C」はどんな感じ? ゲーミング向けってどういうこと?
ハーマンのJBLブランドから、「Quantum 50C」という有線イヤフォンがリリースされた。「ゲーミングイヤフォン」をうたう本製品を実際に試してみよう。
Harman Kardon、広がりのあるサウンドを体感できるホームBluetoothスピーカー
ハーマンインターナショナルは、Harman Kardonブランド製となるホームBluetoothスピーカー「Onyx Studio 9」を発表した。


