現場に聞く PFUのイメージスキャナーならではの強みが生まれる理由:短期集中連載 その3(1/2 ページ)
さまざまなスキャナー製品を提供しているPFUだが、SoCの開発に始まりハードやソフトまでこだわりが満載だという。その実態を聞いた。
PFUのイメージスキャナーは、2009年12月には世界累計販売台数が100万台を突破したのに続き、2023年2月には1500万台を越えて現在では1600万台に到達しており、世界No.1のシェアを持つ。そのうち、ScanSnapシリーズの世界累計出荷台数は、2024年で730万台に達しているという。
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- →【第2回】創業65周年を迎えるPFUの強みとは? 「fi」「ScanSnap」シリーズに息づくこだわりのモノ作り
- →【第3回】本記事
- →【最終回】PFUの試験設備を歩く 神経網のように張り巡らされる品質の追求と飽くなきこだわり
現場にこだわり品質にもこだわる
PFUのイメージスキャナーが、世界の市場から受け入れられている理由は何だろうか。
PFU ドキュメントイメージング事業本部シニアディレクター兼スキャナー開発統括部SS/KB-HW開発部長の若浦具視さんは、「PFUは、より多くの人が快適に使えるように世界をリードする技術を提供してきた。常に挑戦し続ける技術開発の積み重ねが、世界の市場からPFUのイメージスキャナーが評価されている理由である」と語る。
そして、PFUならではの開発に対する特徴的な姿勢をいくつか挙げる。
1つ目は、「現場を知り、設計に生かす」という姿勢だ。
若浦さんはこんなエピソードを披露する。
「ある地域に向けて出荷した製品だけトラブルが多いため、実際に現場に出向いてみた。すると、日本では想定できないような砂ぼこりの中で使っていた。また、高温高湿の環境で使われたり、海抜4000mという環境でも使われたりもしている。開発者が現場を訪れ、現場を知り、それを元に技術に改良を加えてきた」と語る。
ユーザーの利用環境を見ることで、気が付かない困りごとを解決するというのが、PFUの開発手法だ。
左右どちらの利き腕でも使いやすいようにスキャナーのADF(自動給紙機構)を回転させる構造を採用したのも、その一例だ。さらに「Uターンパス機構」では、片面機でありながら両面原稿の読み取りをスムーズに行えるようにし、「エレベータスタッカー」では大量に排出された原稿が取り出しにくく、それが作業効率を下げてしまうことに着目し、原稿排出部の高さを自動的に制御している。
このように、実際に使う人を意識した工夫が随所に盛り込まれているわけだ。
2つ目は、「圧倒的な評価量から生まれる、確かな品質」だ。
PFUでは、高温高湿や低温低湿の環境をそれぞれに再現する環境試験室を本社エリアに設置し、長期的な評価試験を実施することで、環境や紙の状態に変化が生じても変わらない性能で利用できるようにしている。これも現場の過酷な利用状況を知るからこそ、実施している取り組みの1つだ。
実は、イメージスキャナーに搭載されている給紙や紙送りといった機構は特別なものだ。構造を考えると、コピー機やプリンタと似ているが、それらの製品で使われている技術とは求められる水準が大きく異なる。
というのも、コピー機やプリンタで使用されている紙の多くは新品であり、コピー用紙などの一定の品質を持ったものだ。給紙や搬送も、コピー用紙を前提に考えればいい。だが、スキャナーで給紙/搬送し、読み取る紙は既に印刷されているものであり、中には長期間に渡って管理状況が悪い中で保管されてきたものも含まれる。
また、紙質にも大きな差があり、名刺のような厚みを持ったものから、学校でよく使われていた“わら半紙”といった薄いものまで千差万別だ。海外に行けば、さらに多様な種類の紙が対象になる。中国では極めて薄い紙が使われていることも多いという。これらの重要な書類や原稿を傷つけてしまうことは許されない。
PFU ドキュメントイメージング事業本部グローバル戦略統括部の轡田大介さんは、「DXの進展に伴い、アナログのデータを電子化するといったプロジェクトが、企業や官公庁、学校などでも増加しているが、これらのプロシェクトでは、模造紙やわら半紙など、紙質が悪い昔の紙が少なからず出てくる。また紙は生き物であり、環境によって紙質が大きく異なる。これらを安全にスキャンする必要がある」と前置きした。
そして「スキャナーメーカーに求められるのは、コピー機やプリンタとは水準が異なる給紙および搬送時の信頼性と安心感である。PFUが持つイメージスキャナーのコア技術は、それを追求したものといえる」と語る。
PFUでは、40年以上に渡るスキャナー事業の経験の積み重ねの中で、世界中のさまざまな種類の紙を収集しており、これを正しくスキャンするためのノウハウを、ハードウェアとソフトウェアの両面から蓄積している。
具体的には、ハードウェア面では、紙づまりを引き起こしやすいカールやシワ、折り目の付いた原稿など、種類やサイズ、厚さを問わず安定した給紙を可能する一方で、ソフトウェア面では、折り目の部分をそのままスキャンすると影の線が出てしまうが、それを解決できる画像処理技術を持つ。
「トルコでは身分証明書としてカードを携行しているが、これをポケットに入れているためシワができたり、テープで補正して厚みが増えたりする。中には、色紙以上の厚みになっていたりするケースもある。だが、利用現場ではこれらの全てを読み取りたいという要望がある。そうした紙でも搬送できる構造を持っているのがPFUのスキャナーの特徴だ」(若浦さん)と胸を張る。
給紙および紙送りにおいて、同社独自の技術といえるのが「音検知(iSOP)」機能だ。
前回の記事でも触れたように、大きく傾いて搬送された原稿や、ステープル留めされた原稿の紙詰まりの際に、発生する異常音を検知し、搬送を停止する。
原稿を保護する機能はこれだけではない。移動量を監視する機能により、原稿が用紙センサーにたどり着かなければ紙詰まりと判断し、搬送を停止。原稿へのダメージや、破れるリスクを低減しているという。
また、同社のスキャナーに搭載されているブレーキローラーは、異なる紙質のものでも2枚目以降の原稿を分離し、万が一複数枚の紙が重なった状態で紙送りが行われると、ローラーが逆回転をかけて次の紙を押し戻す。
また、業界で初めて超音波方式を採用したマルチフィードセンサーにより、さまざまな原稿を混載した場合に、読み飛ばしを防ぎ、1枚1枚を確実にスキャンすることができる。
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