どの機能も実装してほしい――「Adobe MAX 2025」で披露されたAI機能が見せる“近未来”:本田雅一のクロスオーバーデジタル(3/4 ページ)
Adobeの年次イベント「Adobe MAX」で一番人気のセッションが、研究中/開発中の機能を披露する「Sneaks」だ。ここで紹介された機能をかいつまんで紹介しよう。
Project New Depths:2D編集で3D空間を操るためのAI
「Project New Depths」もPhotoshopに実装する前提の機能だが、Project Surface Swapと比べるとAI活用についてさらに踏み込んでいる。1枚の写真から深度(撮影場所からの距離)マップを作り出し、自由に深度の位置を変えながら他の写真を合成できる。
実演では、古いトラクターが深い草に囲まれている写真が使われた。この写真に木を追加しようとすると、通常は前後関係が曖昧になる。特に草むらの処理は面倒だ。しかし、Project Depthsでは、木をトラクターの後ろに配置すると、自動的にトラクターが木の前面に表示され、正しい遠近関係が維持される。これは単なるレイヤー順序の管理ではない。写真全体の3D構造を理解しているのだ。
実はこの写真は、普通の写真ではない。複数の写真を組み合わせることで立体構造を作り出す「ガウシアンスプラッター」というアルゴリズムを用い、数百万の3Dポリゴンで構成される空間情報を内包している。このため、視点を変えても正確な視野が維持されるだけでなく、反対側に視点を移すことすら可能だ。
選択ツールも、立体構造物に対応している。トラクターの色を変更する際、「Magic Wand」ツールで選択すると、色が似ている他の部分も巻き込んで選択しそうなものだが、立体的な構造としては連続していないため、トラクターのみが正確に選択される。
また、こうした空間マップを維持したまま、異なるレイヤーに分割することもできる。トラクターを別レイヤーに分割すると、草むらや背景の様子はそのまま、トラクターだけを動かせる。
ちなみに、この機能はクラウドではなくローカルで動作し、スマートフォンのプロセッサ(SoC)でも動作可能だという。
Project Light Touch:撮影後にライティングを操るAI
「Project Light Touch」は、撮影後の写真に対して、まるで撮影現場にいるかのように照明を調整する機能で、Photoshopに実装することを想定している。
最初のデモでは、ポートレート写真の右側に仮想的な光源を配置すると、被写体の顔に光が当たり、影が反対側に落ちた。単なる「明るさ調整」ではなく、光の方向/強度/拡散度が物理的に正確にシミュレートされていることが分かる。
上の例では、屋外で撮影されたポートレートで帽子の影響で顔に強い影ができている。そこで「Remove Light(光の除去)」機能を使って光源として「太陽光」を選択すると影が消えるのだ。まるでディフューザーを使ったかのような柔らかい照明になる。写真を分析し、光源の位置や特性から逆算し、その影響を除去しているのだという。
この機能では被写体だけではなく、空間の認識も行って照明を変更することもできる。写真から3D空間を推論してくれるので、その中に仮想的な点光源を配置すると、その光源から発せられる光が、写真内の全ての要素に影響を及ぼす。その結果は、とても自然に見える。被写体への照射角度/影の方向と長さ/壁や床への反射光――全てがリアルタイムで変化する。
暗い廊下の写真では、光源を追加することで隠れていたディテールが浮かび上がる。しかも、追加した光は写真の雰囲気を壊さない。元の写真にある照明環境と調和し、新しく追加した光と混ざり、最初からそこに光源があったかのように見えるのだ。
これはAIで3D構造だけでなく、素材の反射特性や光の物理的な振る舞いまでを推測し、反映しているからだという。
Project Scene It:イマジネーションを3D空間に配置し、写真にするAI
「Project Scene It」は、1枚の静止画から立体物の3Dデータを推論/生成して、既存の写真の上に配置できるという機能で(写真側も構造分析がなされている)、Photoshopへの実装を想定している。静止画が元ではあるが、回転させるだけでなく、外観を回りのライトと調和したものにすることも可能だ。
例えば靴の静止画を表示した状態で、「mountain sunrise(山岳地帯の朝日)」というプロンプトを入力すると、靴が美しい山の風景の中に配置された画像が生成された。3D空間内で靴の向きや大きさが正確に管理されているため、背景との遠近感が自然で、ライティングも的確に反映されている。
さらに、画像生成と組み合わせた機能も披露された。写真の上に直方体を配置し、この直方体に「bouquet of flowers(花束)」というタグを付けて配置すると、それが花束に変化する。そして「electronic seeding board with flowers(電子掲示板と花)」というプロンプトを入力すると、花束が電子掲示板のようなオブジェクトに変わった。
さらに別の靴を追加して「band of flowers(花の帯)」とタグ付けすると、靴の回りに花の茂みが生成される。全ての要素は3Dオブジェクトとして管理されているため、これら全ての要素の照明と影には一貫性が保たれる。
ちなみにProject Scene Itを開発したのは、この夏からAdobeにインターンとして加わった女学生だ。夏季インターンの研究テーマで作られたそうで、彼女は既にAdobeへの採用が決まっているという。
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