45gの伝統を破った「忍者」の感触を持つ1台 HHKB 30周年記念モデルがもたらす「軽さ」をじっくり試す(2/3 ページ)
PFUから「HHKB Professional HYBRID Type-S」の30周年記念モデルが発売された。長年45gの押下圧を標準としてきた同シリーズにとって、初となる「30g」のキースイッチを採用した特別な1台を試してみた。
30周年モデルは30gの忍者
このように30周年記念モデルといっても、そのベースは通常の「HHKB Professional HYBRID Type-S」そのものだ。ストロークも約3.8mmと変わらず、指を置いたときの感覚まではいつものHHKBとなんら変わらない。実際、キー荷重の違いはラバードームの違いのみで実現されているという。
だが、実際にタイプしてみると、30gの軽さは数字の差以上に大きかった。45gのモデルと交互に押し比べると、その違いは指先というより脱力の度合いに表れる。45gでは「コトッ」と意識して底まで運んでいた指が、30gでは「フッ」と置くだけで入力が成立する。
まさに、フェザータッチというにふさわしい軽さだ。
おもしろいのは、軽さに慣れるほど打ち方そのものが変わっていくことだろう。これだけ軽いと、身体の方が「もっと力を抜いてよい」と判断するのか、タイピングがどんどん控えめになっていく。
物理的な接点を持たない静電容量無接点方式のおかげで、指を浮かせ気味にしてもチャタリングなどの誤操作や誤認識は生じない。ここはメンブレンや軽量メカニカルとは少し違う、HHKBならではの感触だろう。
加えてHHKBは、ホームポジションからほとんど指を動かさずに済む配列を持っている。狭い範囲に指を構えたまま、最小限の動きで軽く触れていく。Type-Sの静音機構も相まって、タイプ音も底打ちの衝撃も小さい。
軽さと静かさが重なったこの感触は「静音」というよりは「隠密」、まるで忍者のような印象だ。30gと45g、どちらが優れているという話ではなく、好みと用途の差だろう。長文を一気に書き進めたい日には30gの軽さがありがたく、一字一句ずつひねり出しながら入力する場面では45gの手応えが心地よい。
もっとも、軽さは諸刃の剣でもある。
使い始めの数日は、ホームポジションに指を休めたつもりが、わずかな動きでキーが入ってしまう誤入力が何度かあった。とはいえこれは数日でほぼ慣れ、指を浮かせ気味に構える感覚が身につけば、それほど気にならなくなる。逆に試用を終えていつもの45gに戻ると指が疲れてしまった。45gと30gの差は15g、ではなく、3分の1の軽量化と捉えた方が実際の感覚に近いようだ。
数日使ってみて感じたことは、30gの軽さは長く打つほど効いてくるということだ。一打ごとの差はわずかでも、一日の終わりに原稿を大量に書いた後の指の疲れ方は、45gのときと明らかに違う。軽い力で済むぶん、指にも手首にも余計な負担が残りにくい。
この軽さと静かさは、自宅以外の場所でこそ価値を増すように思う。例えば、人の多いカフェや移動中の車内で原稿を打つとき、底打ちの音が小さいType-Sの静音性に30gの軽さが加わると、周囲への気兼ねがほとんどなくなる。長いキー入力を伴う仕事を外でこなす機会が多い人ほど、この組み合わせの恩恵は大きいだろう。
もう1つ実感したのは、軽さが集中の質にも関わってくることだ。指先の負担が小さいと、文章そのものに意識を向けていられる時間が長くなる。考えることと書く(打つ)ことの距離が縮まるため、より筆記用具に近づいた印象だ。これは数値には表れにくい、使い込んで初めて分かる種類の価値だろう。
カスタマイズ性には変化なし
HHKBのカスタマイズ性は、この記念モデルでも通常モデルから変わらない。底面のディップスイッチでBSとDeleteを入れ替えたり、左下の◇キーをFnやAltへ割り当て直したりといった定番の調整はそれこそ初代から続く伝統的設定だ。
今や、ディップスイッチはHHKB以外で見たことがない、という若者も多いかもしれない。
さらに踏み込んでキー配置を変えたい場合は、キーマップ変更ツールの出番だ。ツール上でキーボードの絵を見ながら割り当てを決めて本体に書き込めば、つなぐ機器を選ばず同じ配列で使える。設定がキーボード側に残るので、複数の端末を行き来する使い方とも相性がよい。
画面に表示されたキーボードの図から変更したいキーを選び、割り当てたい機能を指定していくだけなので、特別な知識がなくても扱える。複数のキー配置をプロファイルとして持ち、用途ごとに呼び出すような使い方もできる。
凝りはじめると際限がない一方、初期設定のまま使っても何ら不便はないという懐の深さも、HHKBらしいところだろう。
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