“打てば響くMR”を目指し、スマートフォンを処方――3000台のWindows phoneが活躍するファイザー(2/2 ページ)
法人向けでは国内最大規模となる、3000台のWindows phoneを導入した薬品大手のファイザー。スマートフォンは医薬情報担当者の業務をどのような形でサポートし、どんな現場の課題の解決につながったのか。
ファイザーの「モバイルIT」活用のこれまで
ITmedia 2007年から導入計画が始まっていますが、それまでもファイザーの社員の方々はドクターとMRがコンタクトを取るという形だったと思います。その当時はどんなIT環境でビジネスをされていたのでしょうか。
ファイザー ノートPCを営業全員に配った歴史は古く、まだMS-DOSの時代から1人1台体制でした。その当時はモデムと電話線を使ってホストコンピュータとシンクロするという形でしたね。その後、Windowsに移行してからもずっと、PCとデータ通信端末を使ってネットに接続していました。
さらに小型端末を用いたモバイルソリューションとして、Palmデバイスを採用したこともあります。ただ、当時のPalmは通信機能がなく、PCとのシンクロ機能しかありませんでした。PCにダウンロードしたデータをコピーして持ち出すという運用方法だったのですが、これはあまりビジネスに利便性をもたらさずに普及しなかった――ということもありました。
このPalmの導入経験から我々が学んだことがあります。(グローバルの)本社は“PCでできることがモバイル端末でできれば便利だろう”と思って配布したわけですが、結局、PCでやった方が便利なことは、わざわざ小さなモバイル端末ではやらないということです。そこからの学習で、今回の導入にあたっても我々から「こう使いなさい」という指示はあまりしていません。
ITmedia しかし、その経験からすると、現在なら「すべての業務をモバイルノートPCでこなせばいい」ということになりませんか。
ファイザー それは違います。ノートPCというのはモバイルデバイスという位置付けですが、実際にはMRが外出先で自由に使えるかというと、必ずしもそうではないのです。MR(医薬情報担当者)が病院の待合室でPCを広げるというのは、失礼だと見られてしまうこともあるのです。病院は我々にとってお客様の職場ですし、多くの患者様の目もあります。ですから、MRはノートPCを自由に持ち歩ける状況にない。盗難や紛失の危険といったようなこともあり、オフィスに置きっぱなしというケースが少なくないのです。
ITmedia 本当の意味での“モバイルワーク”にはならないのですね。
ファイザー ええ、結局、ノートPCを利用した「モバイル」は、オフィスと自宅を行ったり来たりするというもので、いつでもどこでも利用できるという形にはなりませんでした。
一方で、最近になって環境が変わってきたのが、ドクターがMRに会いにくい状況が増えてきたということです。ドクターが診療でご多忙なため、訪問規制を敷かれるケースも増えてきました。そうすると、ドクターが本当に情報を聞きたい時にMRとなかなか会えない――ということで、ドクターとMRとのEメールのやり取りが増えてきたのです。
ITmedia 気軽に面談するとか、スーツ姿で病院に入っていくのは難しくなってきたと。
ファイザー MRは非常に限られた時間にしか訪問できない一方で、ドクターはすごく急いでいらっしゃる。それでいてドクターがすぐ情報が必要、というシチュエーションもあります。ところがMRがノートPCを携行していないばかりに、ドクターから送られてきたメールに夕方帰社するまで気がつかない、ということもあるわけです。
ITmedia メールのタイムラグがビジネス上の問題になってきたということですね。
ファイザー そうです。そういった背景から、ファイザーのセキュリティポリシーに合致し、なおかつモバイルで活用できるソリューションの必要性が高くなってきたのです。
ソフトバンクモバイルを選んだ理由
ITmedia Windows Mobileは複数のキャリアが端末をラインアップしていますが、どのような選定プロセスを取ったのでしょうか。
ファイザー キャリアが決定したのは(2008年)11月頃です。選定に入ったのはもう少し前の段階で、こういう計画があるということで3社に声をおかけして、それぞれどのようなソリューションやサービスがあるのかを伺いしました。
ITmedia キャリア選びで重視したポイントはどのようなものですか。
ファイザー 一番はコストですが、ソフトバンクモバイルに決定したのは、フットワークの軽さと技術力、そしてサポート力の高さですね。
ITmedia 具体的には、どのようなサポートがあったのでしょうか。
ファイザー 一例を申し上げますと、サービスの一環として(ソフトバンクテレコムの担当者が)弊社の全支店を回って説明会を1カ月かけて行っていただきました。100拠点近いとろで1拠点につき3回も行っていただけるのはユーザーからも満足度が上がります。ほかにも専用の(サポート)コールセンター設置や、ソフトバンクモバイルもSEを教育してサポートしていただけるということで、会社全体としての力の大きさというものを感じました。
スマートフォンでビジネスのスピード向上を
ITmedia 今後、どのようにスマートフォンを活用していくのでしょうか。その展望をお聞かせください。
ファイザー 我々はWindows Mobileに特定のビジネスプロセスを載せようとしたわけではありません。それぞれの人がそれぞれに工夫しながら一番よい使い方というのを見つけ出しているのが今のスタイルでしょうから、これからどんどんよい使い方が出てくることを期待しています。おそらく、我々が思っていなかったようなアイデアがいろいろ出てくるでしょう。
今、最も期待しているのは、やはり情報伝達のスピードです。いつでもどこでも空いてる時間にパッと伝えられることが一番のメリットだと思いますので、それをお客様に還元できるような形で、お客様のニーズにできるだけ早く応えられるようにしたいですね。目指すのは“打てば響くMR”です。これを支援するツールとして活用していきます。
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