快進撃はいつまで続く?――本格普及期に入ったiPhone(前編):神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
量販店の販売ランキングでトップの常連となるなど、本格的な普及期に入ったiPhone。購買層にも変化がみられ、今や新規ユーザーの40%を女性が占めるという。こうした需要の変化を支えるのが、アップルストアの取り組みだ。
一般ユーザー増加にアップルストアが貢献
こうした市場環境の変化もあり、iPhoneが「ひとり勝ち」する理由も変化している。
以前から筆者は、iPhoneの成功要因として、端末そのもののデザインやクオリティが高いことに加えて、iTunes Storeを通じたコンテンツ/アプリのエコシステムや、Dockに代表される世代間互換性を重視したことによる周辺機器の充実、Apple独自の認証・課金システムの存在を挙げてきた。これらの優位性は相変わらずであるのだが、女性を中心とした一般ユーザーの増加で重要になってきているのが「アップルストア」の存在だ。
アップルストアは米Appleによって運営されている販売・サポート拠点であり、Appleのブランド体験を提供する重要な場所だ。日本では「アップルストア銀座」を筆頭に全国主要都市7カ所に展開している。Appleでは、MacやiPodなど他のApple製品と同様に、iPhoneもアップルストアで取り扱っているのだが、そのプロモーションやセールスのやり方は、一般的な携帯電話・スマートフォンのそれとは一線を画している。女性など一般の人々に、iPhoneの世界観をきちんと伝える工夫が随所に見られるのだ。
まず、モックアップ(商品模型)がない。アップルストアで展示されているiPhoneは、3GとWi-Fiの両方が使える製品版だ。さらにそれらは購入直後の「吊し」の状態で展示されているのではなく、アプリや音楽コンテンツ、写真、電話帳データなどが登録されており、iPhoneに初めて触れる人でも“実際に利用している雰囲気”が体験できるものになっている。さらにアプリや音楽などは定期的に入れ替えられており、人気や話題性のあるものが用意されているという。これら実際に動くiPhoneをもとに、来店したお客様にあわせてスタッフがiPhoneのよさを伝えていくのだ。
アップルストアで展示されているiPhoneは、実際に使った感覚が伝えられることを重視している。アプリや音楽コンテンツは話題性がよく、センスのいいものが取りそろえられており、写真や電話帳などにもサンプルのデータが入った状態で展示されている
アップルストアではiPhone関連のイベントにも注力している。店頭では毎日10時からiPhoneのワークショップを実施しており、6〜7人の少人数でスタッフのプレゼンテーションを受けることで、iPhoneの世界観や魅力を知ることができる。またシアタールームでも不定期にiPhoneのイベントが開催されている。このようにアップルストアでは、iPhoneを売ることよりも世界観を伝えることを重要視している。これが従来型のケータイとは違うiPhoneへの理解を高めて、女性やスマートフォンには興味のない一般層の心をつかむのだ。
アップルストアではサポート体制の充実にも腐心している。アップルストアでiPhoneを購入すると、パーソナル・セットアップという形でスタッフのサポートが付き、希望者はiTunes Storeのアカウント作成からメールや基本的なアプリの設定までサポートしてくれる。だが、スタッフによる初期設定の代行はポリシーとして行っていない。これは「お客様自身にiPhoneを設定してもらうことで、基本的な操作や各種設定について理解してもらうため。そのほうがiPhoneに愛着も持っていただけます」(Apple)。たとえ時間がかかっても、スタッフが丁寧に教えることに徹することで、ひとりひとりのユーザーがiPhoneを使いこなせるように支援しているのだ。こうして基本操作を覚えれば、ユーザーは自立的にiPhoneを使いこなしていくことができる。地味ではあるが、こうした心配りが、iPhoneの高い購入後満足感を支えている。
また、何かトラブルがあった場合に対応するジーニアス・バーでは、予約によるスムーズな受付のほか、修理ができるスタッフも常駐している。
ほかにも、アップルストアではMacの新規購入者向けに年間9800円で何度でもマン・ツー・マンでのレッスンが受けられる「One to One」など、iPhoneのみならずパソコンの初心者でも安心して使い始められるトレーニング制度やサポート制度に力を入れている。iPhoneの利用にはiTunesが必須のため、パソコンが使えることが前提になる。だがパソコン初心者でもMacをセットで購入すれば、これらのトレーニング制度を活用して、iPhoneのみならずパソコンも使いこなせるようになるのだ。
多くの人々に世界観を伝えて、一方で初めての人にもきめ細かく対面でサポートしていく。アップルストアの存在は、iPhoneのように新しいコンセプトを持つ製品を広げる上で欠かせないものだ。今のところアップルストアは全国主要都市にしか展開していないことが課題であるが、進出している地域でのiPhoneやMacのシェア拡大には確実に貢献しているという。こうしたユーザーとの接点を大事にしていることが、iPhoneが早いペースで女性をはじめとする一般層に広がった要因のひとつになっているのだ。
(後編に続く)
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