コードで絵を描き、音を紡ぐ――美大生プログラマー発、“iPhoneアート”の世界:多摩美の挑戦、学生編
アーティスト自らがプログラミングを手がけることで、メディアアートはどう変わるのか――。こんなテーマで、iPhoneアプリの開発講座を実施している多摩美術大学。学生はこの授業をどうとらえ、どんなアプリを生み出したのか。
多摩美術大学 情報デザイン学科の久保田晃弘教授が実施している「“iTamabi”−iPhoneアプリ開発プロジェクト」は、iPhoneをメディアにして、新たなアート作品を作っていこうという取り組みだ。
これまで学生たちが表現のために使ってきた、楽器や絵筆などのツールを“プログラム言語”に置きかえ、そこからどんな作品が生まれるかを探る実験的な試みといえるだろう。
この講義に参加した学生は、アプリ開発を通じて何を得たのだろうか。多摩美術大学 大学院生の成瀬つばさ氏と、グラフィックデザイン学科4年の西村斉輝氏に聞いた。
- 多摩美の挑戦、教授編:キャンバスはiPhone、プログラミングで新たなアート表現を――多摩美術大学の挑戦
音楽を装置として配信、その可能性を追求したい――成瀬氏
成瀬つばさ氏は、この春に国立音楽大学から多摩美術大学の大学院にやってきた学生だ。音を使ったメディアアートに興味があったことから久保田氏の研究室に籍を置き、iPhoneアプリの開発にも積極的に取り組んでいる。
この4月にiTamabiの講義を受けてから独学でアプリの開発を始め、5月には9本のアプリを開発。うち「リズムシ」「オトツムギ」「タタキムシ」の3本は、App Storeで公開されている。開発したアプリはグラフィックから音、プログラミングまでのすべてを自身で手がけている。
幼い頃からものの仕組みを考えるのが好きで、アイデアをノートに書き留めていたという成瀬氏は、プログラミングを学んだことで、それを実際に動かせるようになったことが、うれしくてたまらないと話す。
成瀬氏は音大から美大に来た理由の1つは、従来型の表現に限界を感じたからだといい、音大時代に所属していた学科ではコンサート形式の発表が主流で、限られた時間の中でいかに面白いものを作るかが重要だったと振り返る。アプリは時間が限定されることもなく、自動生成の要素や自分で遊ぶ要素もある。「そういう中に、新しい音楽があるのではないかと思っています」(成瀬氏)
成瀬氏はiPhoneアプリを通じて“音楽を装置として配信する”ことで、音楽の新たな方向性を提示していく考えだ。
表現の道具としてプログラムを選択――西村氏
グラフィックデザイン学科4年の西村斉輝氏も、表現の手段としてプログラムを選択した1人だ。自身の所属する学科にプログラミングの授業がなかったことから、情報デザイン学科のiPhoneアプリを開発するワークショップに参加。「Art Generator」という視覚表現アプリを開発し、App Storeで公開した(2010年6月24日時点では、OSバージョンアップに伴うアプリのメンテナンスが必要となったため非公開となっている)。
ワークショップは技術を教えるものと思っていたが、実際はそれだけにとどまらなかったと西村氏。美大生がプログラミングを学ぶことの意味や、それがどんな未来につながるのか、さらには、“これまでキャンバスに描いていたことをコードで書いているだけのことで、特別なことをしているわけではない”といった心構えまでを広く教わったという。
「グラフィックデザインの勉強をしている人でも、コードで絵を描くアプローチをしている人は少なく、同じような絵を描く技量を持っていても、自分はキャンバスを使うのとは違うことをしている――という意味で自信がつきました」(西村氏)
西村氏はプログラミングは今後、アートの領域に浸透していくと見ており、プログラムを得意とする人が、非プログラマーでビジュアルが得意な人向けに、ツールを簡単に使えるようにしていく動きが加速すると見る。「直感的に使えるツールが出てきつつあり、簡単に参入できるようになってくると思います」(西村氏)
記事中のアプリ
- →App Storeで「OtoBlock」をダウンロードする(リンクをクリックするとiTunesが起動します)
- App Storeで「Rhythmushi」をダウンロードする(リンクをクリックするとiTunesが起動します)
- App Storeで「Ototsumugi」をダウンロードする(リンクをクリックするとiTunesが起動します)
- App Storeで「Tatakimushi」をダウンロードする(リンクをクリックするとiTunesが起動します)
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