M2Mの採用で普及率が3倍増――在宅医療をサポートする「HOT見守り番 TOMS-M」:MCPC アワード 2011
在宅医療で使われる医療機器は患者の命に直結する存在。M2Mを活用した帝人ファーマの「HOT見守り番 TOMS-M」は、在宅医療機器の保守・管理といった運用を容易にしただけでなく、効果的な治療の指導にも貢献している。
医療技術の進歩と社会保障制度の見直しにより、従来は入院が必要だった治療を自宅で行う在宅医療が進んでいる。MCPC award 2011のグランプリ(大賞)にノミネートされた帝人ファーマの在宅医療モニタリングシステム「HOT見守り番 TOMS-M」は、在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)で用いられる家庭用酸素濃縮器の遠隔管理に使われるシステムだ。MCPC award 2011の会場では帝人ファーマの峠真一氏が最終プレゼンテーションを行なった。
在宅酸素療法とは、慢性的な呼吸器疾患の患者などが受ける治療法。自宅に酸素濃縮器を設置し、睡眠時や階段を上り下りしたあとなど、酸素不足が起こる際に高濃度の酸素を送る。かつての酸素療法は保険の適用外であったり、入院が必要など患者の負担が大きかった。在宅化が進んだ現在は、国内で約15万人が在宅の酸素療法を受けており、半数以上の約8万人が帝人ファーマの酸素濃縮器を利用している。患者の負担は大きく減り、仕事や趣味が再開できるようになったなど喜ばれる声が多いという。
一方で、新たな課題も生まれた。HOT用の酸素濃縮器は患者の命に直結する機器であり、家庭で使われるためメンテナンスなどの保守業務には細心の注意が必要になる。帝人ファーマでは24時間体制のコールセンターを設置しているが、機械の操作に不慣れな高齢者や目や耳が不自由な患者へのサポートが難しく、また核家族化や独居化が進んだことで、機器の経年劣化や不具合、故障に気が付かない恐れがあった。
帝人ファーマは1999年から、固定回線を通じて酸素濃縮器を遠隔監視する「TOMS」(Teijin Oxygen-concentrater Monitoring System)の運用を開始したが、ドアホンやADSL、FTTHなど患者宅の多種多様な固定回線に合わせた工事が必要なため、あまり普及していなかった。この回線工事を容易化して機器の普及を目指したのが、携帯電話網を介して機器をモニタリングするTOMS-Mだ。
TOMS-Mは担当営業が患者宅を訪問し、酸素濃縮器にM2Mモジュールを取り付けるだけで設置が完了する。その簡単さから、運用を開始した2010年7月からの10カ月間で設置数が3倍以上に増加。当然、作業コストの削減にも貢献した。
TOMS-Mは運転履歴を1日1回、ドコモ網を使うVPN回線で帝人ファーマのサーバに送る。このデータは機器のメンテナンスに役立てるのはもちろん、リポートを医師に提供することで、患者が正しく酸素療法を行っているかの指導も可能になったという。利用内容としては固定回線を使うTOMSと同じだが、利用できる患者が増えたことで、患者本人はもちろん、その家族や医師からの評価が上がった。
またTOMSの基盤技術は、ほかの医療機器への展開もできるよう設計されている。在宅医療で使われる機器は増えており、酸素濃縮器同様に遠隔監視・操作のニーズも高い。M2Mの導入で一定の普及が見込めたため、ほかの機器を接続してのモニタリングプラットフォームとしての利用も考えられる。
さらにTOMSは、今回の東日本大震災で一定の役割を担った。帝人ファーマでは災害などで停電が起きた際、患者宅に訪問してバッテリーや代替となる酸素ボンベを提供している。今回の震災では地震や津波の影響のほか、計画停電も入れると約2万人の患者が影響を受けたが、あまりに被害が大規模なため、同時にすべての対応を行うことは不可能だった。
そこで、TOMSの通信履歴を患者の優先順位付けに利用し、停電や通信障害などで送信履歴がない地域を中心に対応を進めたという。とはいえ、多くの患者宅で遠隔監視が停止したため、人海戦術で対応せざるをえなかった面も強い。帝人ファーマでは災害対応を課題の1つととらえ、今後の改善が必要としている。
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