ITで築く「学習の高速道路」――“定額見放題”のネット授業、iPhone/iPadでより便利に:教育改革、塾で着々(3/3 ページ)
日々の暮らしや仕事がITで大きく変わろうとしている中、なかなか進まないのが教育分野の改革だ。ここに打ってでたのがベリタス・アカデミーの坂木氏。IT活用で“学びの効率化”を目指す、同氏のお手並みを拝見しよう。
ITによる教育改革は“コンテンツがあってこそ”
ITの進化やスマートデバイスの登場で、人の暮らしや仕事の仕方は大きく変わろうとしている。しかし、教育分野のIT活用は手探りの状態が続いており、大きな進展が見られないのが現状だ。
IT化が進まない理由の1つとして坂木氏が指摘するのが、“コンテンツ作りと共有の仕組みが確立していない”点だ。学校への電子黒板の導入が検討され始めているが、“そこに何を映し出すのか”“電子黒板を生かしたコンテンツを先生が作れるのか”といった点について、きちんとした方針を定めておかないと、導入はうまくいかないと予測する。
「電子黒板向けのコンテンツは作るのに本当に手間がかかり、よほど熱心な先生じゃないと作れない。それだけ手がかかるものを、授業以外に学校の行事やクラブ活動にも関わっている忙しい先生方が作れないのは仕方がない」(坂木氏)
こうした問題を解消するためにも、教師が作成した全国のコンテンツをアーカイブする仕組みや、コンテンツを共有するための仕組みが必要なのではないかというのが坂木氏の考えだ。
「全国規模でみたら、電子黒板向けの教材をつくるのが得意な先生もいるはず。そういう先生が作った教材を全国のどの学校でも使えるようにすれば、効率のよい授業ができるようになるのではないか。効率化した時間は、よりよい授業の開発や、生徒とのコミュニケーションに充てるべき」(坂木氏)
坂木氏が理想とするのは、まず生徒に問題を解かせて、「なぜその解答を選んだのか」「どの単語が分からなかったのか」「なぜ、その単語をそう解釈したか」といったやりとりを繰り返す授業だという。こうやって生徒の苦手な部分を洗い出し、直していくことで、驚くほど成績が伸びるそうだ。「録画コンテンツでできないのは、この対面の部分。効率化によってできた時間で、生徒とのやりとりをもっと手厚くするべきだと思う」(坂木氏)
学校と違って教室を持たないベリタスでも、ITを活用した対面授業の実現方法を模索しており、その一環として、普段は録画で提供している授業をリアルタイムでストリーミング配信する「公開授業」を定期的に実施している。
Ustreamで配信する公開授業には全国300人超の生徒が参加し、生徒と講師は授業の合間にTwitterでやりとりする。その内容は、おすすめの学習法から部活の話までさまざまだ。全国各地の生徒たちは、授業とコミュニケーションの場を共有することで互いに刺激を受け、モチベーションが上がるという。
こうした授業ができるようになったのも、ITを取り巻く環境が進化したからこそだと坂木氏。「こうしているうちにも、デバイスがどんどん進化する。教育改革でやることはたくさんある」(同)。
Ustreamを利用した公開授業の様子。坂木氏は授業をしながら生徒からのTwitterに目を通し、コミュニケーションを図る。授業のあとには質問タイムを設け、TwitterやSkypeで受け付けた質問に答えていた
これからの先生にはITの知識が必要
これからの教師には、ITのスキルやリテラシーが求められる――。これは坂木氏の実体験から出た言葉だ。
教育のIT化が進むと、“教育のどこをどのようにIT化すべきか”を考える必要がでてくる。また、新技術やサービスが次々と登場する中、それらをどのように教育に生かすかを考えることも重要で、こうしたときに、教育、ITのどちらかに偏った知識だけでは、よりよい方法を考えるのが難しいという。
「教えるのが上手な先生であってもIT知識がないとだめ。逆にIT知識があっても教えるのが下手な先生、今の教育に対して問題意識が少ない先生はだめ。アナログ教育の欠点を見つけ、その欠点をITで解決するという視点が大切なので、教育的視点とITスキルを兼ね備えた人材が必要になってくる」(坂木氏)
坂木氏は、eラーニングの配信プラットフォームを手がけるキバンインターナショナルと組むことで、技術やサービスに学ぶ機会を得て、アイデアを形にしやすくなったと振り返り、「先生のITスキルやITリテラシーの向上は急務」と強調した。
関連記事
- スマートフォン、タブレット端末の導入事例を募集します
業務のパートナーに、デジタルサイネージに、お店のメニュー代わりに、POSレジ用途に――。仕事や生活のさまざまなシーンで活躍し始めたスマートフォンやタブレット端末。あなたの会社の導入事例を教えてください。 - 小学校にAndroidタブレット、学習進度に応じて個人レッスン――KDDIら
KDDIが小学校にAndroidタブレットを試験的に提供。生徒の学習進度に応じた基礎学習などに役立てるほか、アンケートツールとしても活用。取り組みを通じて有用性を検証していく。 - キャンバスはiPhone、プログラミングで新たなアート表現を――多摩美術大学の挑戦
キャンバスはiPhone、絵筆の代わりにプログラム言語を操り、iPhoneアプリでアートを表現――。多摩美術大学が展開するこの講義は、メディアアートをどう変えていくのか。久保田晃弘教授に聞いた。 - コードで絵を描き、音を紡ぐ――美大生プログラマー発、“iPhoneアート”の世界
アーティスト自らがプログラミングを手がけることで、メディアアートはどう変わるのか――。こんなテーマで、iPhoneアプリの開発講座を実施している多摩美術大学。学生はこの授業をどうとらえ、どんなアプリを生み出したのか。 - “550台のiPhone”は、教育をどう変えるのか――青山学院大学 社会情報学部の取り組み
学生と教員にiPhone 3Gを配布し、授業やキャンパスライフなどで活用している青山学院大学 社会情報学部。550台のiPhoneは実際の授業でどのように使われ、どんな形で生徒の学習をサポートしているのか。同学部で助教を務める伊藤一成氏に聞いた。 - ケータイをバリバリに使った授業、その効果は――大阪府知事 特別顧問の藤原氏
「ケータイを持っている高校生に、“持つな”といっても仕方がない。それなら一歩進んで、授業に持ち込んで有効に活用してみよう」――。こんな考えから始まった“ケータイバリバリ”の授業とは、どんなものなのか。 - iPadによる障がい児学習支援の試みに34校が協力
ソフトバンクグループは、iPadで障がい児の学習を支援する事例研究プロジェクト「魔法のふでばこプロジェクト」の協力校を発表した。34校に計100台のiPadを1年間提供し、教育現場で活用してもらう。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.