滑走路に降り立った旅客機がターミナル前のスポットに誘導され、停止すると、普段あまり見かけることのないさまざまな形をした車両が集まってくる。それはまるで、お菓子に群がるアリのよう。空港で活躍する特殊車両の任務・役割に注目してみよう。
機長は客室のすべてのドアが「閉」になったことを、目の前の計器で確認した。ほどなくコクピットに入ってきた客室乗務員の1人が「キャビンOKです」と報告。これで出発準備が完了だ。地上に待機しているいつもの“力持ち”に機長はインターフォンを使ってプッシュバックを要求し、パーキングブレーキを解除する。隣の席の副操縦士が地上走行で義務付けられている衝突防止灯をオンにすると、機体は地上の“力持ち”に押されゆっくりと動き始めた。さて、その“力持ち”とは?
空港の旅客ターミナルのスポット(駐機場)から滑走路への誘導路を、旅客機は飛行中と同じジェットエンジンの推力でタキシング(地上走行)してゆく。車輪はギアを入れて回転させているのではなく、単に空転しているだけ。エンジン回線数を最小限に抑えてほとんどアイドリング状態で走行し、ブレーキでスピードをコントロールしながらゆっくりと進むのだ。
ということは、もうお気付きだろう。旅客機は自分の力でバックすることができない。なぜ車輪に動力を備えないのか? 乗客や燃料を積んだ状態では300トン以上にもなる機体を動かすには、相当パワーのエンジンが必要だ。その大きくて重いエンジンが、滑走路から飛び立って地面を離れた瞬間に役割を終えてしまうのは、どう考えても無駄である。旅客機は乗客が乗り降りしやすいよう機首をターミナル方向に向けてスポットに停止するが、だとすると、出発の際にはどうやってバックするのか?
そこで活躍するのが、地上で出番待ちをしているいつもの“力持ち”──「トーイングカー」と呼ばれる特殊車両だ。どの空港にも、200トン、300トンの旅客機を楽々と押して走れるトーイングカーが待機。車両の先端から出ている牽引用の棒が機体の前輪に装着され、機長がプッシュバックを要求すると、機体はトーイングカーに押されてゆっくりと動き出すのである。
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