第55鉄 乗り物いっぱい富士山めぐり(後編)奇想天外なバスに乗る:杉山淳一の +R Style(5/5 ページ)
富士山周辺へ観光に行くなら、ぜひ乗ってみたいのが「山中湖にいるカバ」。そしてもう一つ見逃せないのが水戸岡鋭治氏デザインの駅だ。今回は「富士山駅」「下吉田駅」を訪れた。
富士山駅と下吉田駅、2つの水戸岡デザインを訪ねる
山中湖から戻り、旅の締めくくりとして2つの駅をゆっくり訪ねた。1つ目は改名してリニューアルされた富士山駅。駅名票もトイレも和のテイストが生かされ、エントランスには大きな鳥居も掲げられている。それにしても、もとからあった大きな建物は何だろうと気になっていた。富士急行の本社ビルにしては、失礼ながら大きすぎるような……。それが今回、探訪して分かった。オフィスビルのような外観だけど、中身はデパートだった。1階はスーパーと土産物屋さん、2階以上は生活雑貨や洋服やさん、クリニックなどがテナントとして入店している。
そのビルの最上階は展望テラスになっていた。富士山と富士吉田市を一望できるスポットだ。ここも富士山駅と同様に、水戸岡氏の手でリフォームされていた。富士急ハイランドも見える。富士急行の電車が走る姿も見える。富士山が見えたらなあ、夕陽も見えたらなあ……と、曇天が心から悔やまれた。
気を取りなおして大月行きの電車に乗った。まだ帰らないぞ。昼前に富士登山電車で立ち寄った下吉田駅を再訪問。さっきは貨車しか見なかったので、今度は駅舎をゆっくり眺めた。遠くからその佇まいを、近くから造形の美しさを。そして待合室でペットボトルのお茶を飲みつつ、静謐な空間を楽しむ。いや、たしなむといったほうが似合うかもしれない。広くて、シンプルで、懐かしい。
窓口も閉じて無人になった駅に、ひっそりと電球の柔らかい光が灯っている。私はふと、北海道の夕張にある洋館「鹿鳴館」を思い出した。そこには昭和天皇も滞在されたという貴賓室があって、誰でも見学できる。この待合室には、その貴賓室に通じる雰囲気がある。されどここは駅。列車を利用する人や、送迎に訪れる人が、誰でも、いつでも中に入れる。そう思うとこの空間は贅沢だなあ。朝はこの駅から通勤や通学に出かける人がいるんだろう。夕方はここから家路をたどる人もいるだろう。羨ましい。故郷の駅がこんな駅だったら、帰省も楽しくなるに違いない。
今回の電車賃
JR東日本 新宿−大月 1280円
富士急行 フジサン特急フリーきっぷ 2200円 富士登山電車乗車整理券 200円
オープンバス KABA 1200円
以下、後編の交通費
富士山駅−旭日丘 富士急行バス 620円(後編)、水陸両用バス KABA 2000円 (後編)、旭日丘−富士山駅 富士急行バス 620円(後編)、JR東日本 大月−新宿 1280円(後編)
※東京からは、「河口湖・山中湖セレクトフリーきっぷ」(4500円)が便利。往復のJR運賃と富士急行フリーきっぷ、バスチケット(4種類から選択)のセット。(KABA 富士登山電車などは含まれない)
著者プロフィール:杉山淳一
肉食系鉄道ライター(魚介類が苦手)にして、前世からの鉄道好き。生まれて間もなく、近所を走っていた東急池上線の後をついていったという逸話あり。曰く「いつもそばを走ってたから、あれが親だと思った」
日本工学院大学非常勤講師(テキスト商品学)。コンピューター系出版社でゲーム雑誌の広告営業を経験した後、フリーライターとなる。オンライン対戦ゲーム、フリーウェア、PCテクニカルライティングなどデジタル系の記事を専門とし、日本初のEスポーツライターとしてオンライン対戦ゲーム競技を啓蒙する。
趣味は日本全国の鉄道路線探訪で、現在の路線踏破率は約8割。著書は『もっと知ればさらに面白い鉄道雑学256(リイド社)』『知れば知るほどおもしろい鉄道雑学157(リイド社)』『A列車で行こう9 公式ガイドブック(エンターブレイン)』『A列車でいこうDSナビゲーションパック(アートディンク:同梱冊子担当)』など。
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