マレーシア航空不明機、原因解明のカギを握る「ブラックボックス」とは?:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(2/2 ページ)
消息を絶ったマレーシア航空370便。インド洋でブラックボックスの信号を探知したというニュースもあったが、発見には至っていない。そもそもブラックボックスとはどういうものか?
冗談も軽口もみんな記録されてしまう
「コクピットで操縦しながらふざけて冗談を言い合ったり、たわいのない世間話をしていたりした場合に、それもボイスレコーダーに記録として残ってしまうのですか?」
エアラインパイロットを志望しているという学生から以前、心配そうな顔でそう聞かれたことがある。答えは──「イエス」。内容にかかわらずどんな会話ややりとりも、また乗客へのアナウンスも、ボイスレコーダーにはすべて記録される。
だからといってコクピット内では機長や副操縦士が無駄口もたたかず堅苦しい雰囲気の中で操縦に集中しているのかというと、決してそんなことはない。アクシデントなどが何もなければボイスレコーダーが解析されることはないし、離陸して自動操縦に切り替わったあとのコクピットでは、クルーたちは趣味の話をしたり軽口を言い合ったりしながら和気あいあいと過ごしている。
海底から位置を知らせる信号を発信
ブラックボックスは、とても頑丈にできていることも大きな特徴である。機体が炎上する激しい事故でも、ブラックボックスが壊れたというケースはほとんどない。
ボイスレコーダーもフライトレコーダーも、墜落時の衝撃や火災の高温から護られるよう、耐熱・耐衝撃構造の丈夫なカプセルに収められている。このカプセルに入っていると、1000度を超える高温に30分以上放置されても、びくともしない。1000度といえば、硬い金属でも溶けてしまうほどの高温だ。さらに、水深6000メートルの海底に沈んでも、海水の浸入を許さず、その水圧に耐えられる構造にできている。
本当に海中に沈んでしまっても見つけ出せるのか? 疑問に思う人もいるだろうが、可能性は決して低くない。ブラックボックスは、機体後部のトイレの上や天井裏、後方貨物室付近など、事故が起きても最も衝撃の受けにくい場所に設置されている。また爆発・炎上して機体が砕け散り、ブラックボックスが海中に水没しても、ブラックボックスは強い衝撃を受けてから30日間にわたって位置を知らせるための信号を発信し続けるので、これまでさまざまな事故で無事に回収されてきた。
しかし、マレーシア航空370便が消息を絶ったのは3月8日だ。残念ながらすでに30日を経過してしまっている。まだ少しでも可能性が残されているなら、何とか取り戻して、謎につつまれた事故の真相解明に役立ててほしいものである。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにリポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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