JR北海道からSL拝借、東武鉄道に「ビジネスチャンス」到来杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2015年08月14日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 8月10日、東武鉄道がSL観光列車参入を発表した。運行区間は鬼怒川線の下今市駅〜鬼怒川温泉駅間の12.4キロメートル。蒸気機関車は、何とJR北海道から「C11形207号機」を借り受けるという。プレスリリースには「2017年度をめどに」とある。あと2年ほどだ。蒸気機関車を持てあましたJR北海道と、都心から最も離れた区間をテコ入れしたい東武鉄道の利益が一致した。これはうまいことを考えたな、と思う。

東武鉄道がJR北海道から借りる予定の機関車(出典:東武鉄道プレスリリース) 東武鉄道がJR北海道から借りる予定の機関車(出典:東武鉄道プレスリリース

 JR北海道は今、積極的に蒸気機関車の貸し出しを売り込む状況ではないから、これは東武鉄道の妙案であろう。ただし、ただ機関車を持ってきて走らせるという簡単な話ではない。線路の幅は同じだけど、蒸気機関車は電車に比べて重いから、線路設備の見直しや強化が必要になる。機関車側も改造が必要だ。東武鉄道に対応した保安設備を設置しなくてはいけない。

 C11形207号機は状態が良くないという噂があり、徹底的な再整備が必須。乗務員の訓練も必要だ。JR北海道から乗務員ごと借りるとしても、路線に習熟してもらわなくてはいけない。2017年度まで、という目標は、遠い先のように見えて、かなり忙しい日程といえる。

運行予定区間は都心から最も遠い区間(出典:東武鉄道プレスリリース) 運行予定区間は都心から最も遠い区間(出典:東武鉄道プレスリリース)

 そして何より、客車をどうするか。東武鉄道には機関車もなければ、機関車に連結する客車もない。これもJR北海道から借りるか、大井川鉄道やJR東日本などから客車を借りるか、あるいは東武鉄道で使用機会が減った電車を改造するか、という選択肢になる。

 東武鉄道が客車を新製したり、自前の古い電車を改造したりして、新たな観光列車を仕立てたら面白い。電車を客車に、というと大胆な改造に思えるけれど前例がある。大井川鐵道で運行しているお座敷客車と展望車は、元々は西武鉄道の電車だし、わたらせ渓谷鉄道のトロッコ客車の車体も京王電鉄の通勤電車だった。

 だから、東武鉄道がどんな客車を連結するかで、C11形207号機の運命も決まる。東武鉄道が客車にカネをかけたら、それはSL列車を永続的に運行するという意思表示だ。帳簿上はJR北海道から借りた形だとしても、事実上は東武鉄道への移籍となる。今後の客車に関する発表に注目だ。

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