そのために、マツダは現在好評をもって受け入れられているデザインコンセプト「魂動」のノウハウを存分に投入して、古今東西のFRの中で最も美しい1台にするつもりで、RX-VISIONをデザインした。
デザインで勝負する意味はいくつもある。数値的な性能やエンジニアリングの詳細をアピールできない今、メディアを通じて、あるいはSNSを通じて最も情報が伝播される可能性が高いのは写真、つまりデザインである。加えて、フラッグシップ・スポーツカーのコンセプトで高い評価を得ることができれば、上手くいけばマツダ全体のイメージアップにも繋がるだろう。
もう1つ、クルマにおけるメカニズムの地位が低下していることも見逃せない。1980年代は「ターボだ」「DOHCだ」「ダブルウィッシュボーンだ」というメカニズムそのものがクルマの商品性を担保してくれる部分が大きかった。しかし昨今の状況に鑑みれば、メカニズムの訴求だけで商品が成り立つとは考えにくい。さしもの個性派、ロータリーにしても、このご時世にかつてほどの神通力は見込めない。次世代RX-7に強い商品力を持たせたいとすれば、デザインでのアプローチを考えるのは手堅い戦略だと言えるだろう。
つまり、マツダは東京モーターショーという注目の集まる舞台で、ステークホルダーに対して着実にアピールポイントを積み上げることを目的としている。そのための手段として、ロータリーと流麗なスタイルという2本の柱を考えたのだと思う。
ビジネスには確実に成功する方法というのがほとんど無い。ただし、成功までのルートマップがあるのかないのかは重大な分岐点である。マツダはコンセプトカーによってマーケットに声を上げさせ、その刺激でステークホルダーを動かし、プロジェクトを正式スタートさせるという地図を描いている。夢というのはそういう本気で取り組む姿勢があってのものだ。モーターショーの賑やかしのためだけに作られた絵空事のショーカーの最大の問題点は、作っている側にすらそれを本気で実現する気がないことだ。
RX-VISIONはこのまま市販されることは無いだろう。それは間違いない。しかし、マツダがやりたいことに向けた戦術がしっかり織り込まれたルートマップ付きの夢なのである。そうした本気の夢はとても清々しいし、応援したくもなるのだ。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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