日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
今週、世界中のソーセージやベーコン愛好家たちの間に衝撃が走った。
世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、「加工肉の摂取が大腸がんを引き起こすことを示す十分な証拠が得られた」として、タバコやアスベストと同じレベルの発がん性があるという評価を公表したのだ。
なんでもハムやベーコン2〜3枚分(50グラム)を毎日食べ続けると、がん発症率が18%高まるというのだ。子どもをもつ親や、健康志向の高い人々の食卓や冷蔵庫から加工肉が消えるほどインパクトのある数字だ。
ただ、ビミョーな部分もある。
ここまでダイナミックな公表をしておきながら、加工肉が発がん性を高めるメカニズムは分からないというし、これが原因でがんになって亡くなるのは全世界で、推定約3万4000人という、全世界の消費量に対してはどうなのよというほどの少なさであり、タバコや大気汚染に結び付けられるがん死亡者数とは桁がひとつもふたつも違うのだ。
こういう「穴」をめがけて、IARCに世界中からびゅんびゅん矢が放たれている。なかでも鼻息荒く切り込んでいるのが、ソーセージやベーコンやらをつくる加工肉業界だ。
北米食肉協会(NAMI)は、望む結論へ誘導するためにデータを歪曲(わいきょく)したと指摘。つまり、インチキを行ったと痛烈に非難した。会長のバリー・カーペンター氏などは、こんなコメントをだしている。
「IARCががんの原因にならないと明言しているのは、ヨガの際にはくパンツに含まれる化学物質だけだ」
まがりなりにもWHOの外部機関をここまでこき下ろすというのはいかがなものかと眉をしかめる方もいるかもしれないが、加工肉業界も攻撃的にならざるえない理由がある。
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